たぶん、今もっとも話題の高級靴は、英国チャーチの"シャンガイ"でしょう。本社のアーカイブをもとに、徹底したユーズド加工が施され、新品なのに、何年も履き古したように見える靴です。この型破りな新作は、イタリアや日本で大人気となり、先シーズンは、売り切れ店が続出したといいます。
この靴を買おうかどうか、さんざん迷いました。シャンガイを買うということは、大げさに言えば、今まで靴に対して抱いてきた自分のポリシーを、裏切ってしまうような気がしたからです。
『
最高級靴読本』や『
メンテナンス大全集』で標榜してきたのは、「いいモノ買って、長く使う」ということでした。高級靴というものは、手入れをしつつ、古びていくところに愛着が生まれるのであって、履き込まれたシワや、偶然付いたキズは、「よし」としても、最初からユーズド加工をした靴というのは、どうにも抵抗がありました。
また通常、靴職人たちは、「いかにキズをつけないか」ということで、とても苦労しています。底付けなどの段階で、アッパーにキズをつけてしまったら、売り物としてはパーになってしまうからです。だから、完成した靴に、わざわざキズやムラなどを付けていくというのは、職人の感覚からすると、信じられないことでしょう。
最初にシャンガイの存在を知ったとき、「英国の靴職人がアタマを切り替えて、よくこんなものを作ったなぁ」と驚きました。しかし、その後イタリア製だとわかり、納得しました。イタリア人は、伝統や技術に対して、フレキシブル(いい加減?)です。もし英国の職人に靴にユーズド加工をせよ、と命じても、頑固な彼らは、きっと首を縦に振らなかったに違いありません。
というわけで、私はシャンガイに対して否定的で、単なるイロモノだと思っていたのですが、展示会で見て、突然欲しくなってしまいました。シャンガイを所有し、履くということが、どんなことなのか、体験したくなったのです。ポリシーより、ミーハー心のほうが勝ったのですね。