編集長・大野のスイス現地取材
パテック フィリップの時と美をめぐる旅へ
世界最高峰の時計と称され、世界中の時計愛好家にとって究極の憧れであるパテック フィリップ。その真髄とは? を探るべく、美しい時計が生まれ、育まれてきたブランドのDNAをめぐる旅へ。本社兼工房、ジュネーブ本店、ミュージアムなどを各年代背景も踏まえレポートいたします。
ひとつ屋根の下だからできる、哲学の継承と家族的一体感
オーシャンライナー(大型船)のようにも見える巨大な建物には約2000人の社員が働いている。元々、ジュネーブ市内や郊外で12箇所に分かれていた工房を2020年、一つに統合し完成した。1996年、当時のフィリップ・スターン社長の指導の下、始動したプロジェクトだ。
本社兼工房 PP6
2020 -竣工-
理由は当時の生産量を著しく増加させることではなく、ブランド戦略として、複雑機械式時計や希少なハンドクラフトの専門家と社員のトレーニングに、“ひとつ屋根の下”が不可欠だったこと。生産効率面の向上はもちろんブランド哲学の浸透、技術継承を総合的に出来る意味は大きい。
足を踏み入れると、とにかく清潔、静か。社員各々の集中力が妥協なき時計作りに繋がることを全ての工程で感じる。
エントランスから時計作りの意匠でお出迎え
ノーチラス・ケースのわずかに丸みを帯びた八角形を連想させる建物外観。中に入ると時計作りに欠かせないパーツのあしらいが各所に。ブロンズ色の非常階段、自然光を採り込む作りなど建築の細部に美学が宿る。


1階と2階は、地板(メインプレート)、受け(ブリッジ)、歯車、特殊形状部品などムーブメント構成部品の製造と仕上げを。3階はケース、ブレスレットの機械加工、手仕上げ、組み立て、ジェム・セッティング、アンティーク時計の修復を行う。4階は主に新素材や新技術の研究開発を。5階は希少なハンドクラフト技術(手彫金、クロワゾネ本七宝、ギヨシェ装飾、木象嵌、細密七宝画)を継承、進化に取り組む。
PP6は、パテック フィリップらしさの継承の場として重要だ。創業以来、独立したメーカーであり続けるからこそ一貫性を継続できる。そして “親から子へ、子から孫へ” 受け継ぎたくなる絶対的価値がある。生産性という指針のみに頼らない “世界最高峰の時計作りを!” というブランドの強い矜持を感じた訪問だ。
[最先端技術]

最先端技術も積極的に採用。極小の複雑な金属を切る際には「ワイヤー放電気」でカット、電子が浸食することによって綺麗に切れる。
[手の感覚]

異なる色や木目の木材を精密に組み合わせ、模様やデザインを作る「木象嵌」技法では熟練職人の手の感覚によるところが大きい。
[正確さ]

「輪列」を構成する歯車は、時計作りにおいて最も基本で、心臓部になる部品。噛み合わせの正しさが精度に直結する箇所といえる。
[誠実さ]

製品になると見えないパーツの一つ一つまで丁寧に磨きをかけチェック。完璧を細部まで徹底する姿勢にブランドの誠実さを感じた。
[美と技]

ジェム・セッティングは石が最も美しく見える光の入り方を計算、石に溝を入れてセット。同じ角度で入れていくのが至難の業。
[妥協なき芸術]

「クロワゾネ本七宝」は、金のワイヤーで描いた輪郭の中にエナメル釉薬を塗り、炉で焼いていく高度な職人技を用いた希少な文字盤。
[希少性]

「木象嵌」で描く豹。生産性という言葉とは縁遠く究極を求める姿勢に妥協は一切ない。後世に遺されていく人類が生む芸術作品だ。
[修復]

過去の豊富なスペアパーツの在庫を徹底管理。アンティーク時計の修復に欠かせない。スペアがなければ一つずつ昔と同じ技法で作る。
[継承]

ひとつ屋根の下に統合された新工房になったことにより、複雑な技術を次の世代へ継承していくのにより良い環境となっている。
[アーカイブ]

アーカイブルームには、創業当時からの台帳が手書きで残り、販売価格や販売店も記載。と同時に全てがデジタル化管理されている。
[MEN’S EX Spring 2026の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)





