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素材と向き合うのは自然と向き合うこと

日本の伝統産業の原動力を尋ねると、中田氏は自然との共生をあげた。

「僕たちの生活は気候や自然環境が生んだ、その土地でとれるものから始まっています。農業も工芸も、その地域で取れる素材から生まれているのだから、環境、つまり自然と向き合い、理解することが大切。自然と共生する生活には厳しいものもありますが、何にも替えがたい幸せがあります。今もそこが(伝統産業の)一番の強みではないでしょうか」。

さらに、日本人ならではの気質も、もの作りに結びついていると、中田氏は捉えている。

「日本には柔道、茶道、華道など、道の付く文化が多い。“道”である以上、道は続けるか、止めるかしかありません。道にはゴールがない、つまり完璧がないのです。だからこそ、それが日本の精神性に結びついて、よりよいものを作り続けている。伝統産業は、もの作りを研ぎ澄ませて前に進む、すごい力を持っています」

一方で、伝統産業を取り巻く環境は日々、大きく変化し、課題もある。

「近年のライフスタイルは急速に変化しています。昔からのやり方だけにこだわるのではなくて、大事にすべきことを見極め、現代の生活にマッチするもの作りをすることが重要ではないでしょうか」

いまでは、来日した大物デザイナーらから、「工芸を見たい」との依頼が多く、中田氏は人間国宝や若手作家の元へと彼らを案内している。また、彼らは日本のアートや建築、食にも関心が高い。その体験から、「日本の文化全体に興味を持つ海外の人が増えているのが現状」と中田氏。自然との共生や、もの作りを突き詰める精神性を背景に継承されてきた伝統産業。それらは、現代のプロデューサー、中田英寿氏の視点で、次のステージへと可能性を広げている。

 Profile 
中田英寿氏
Jリーグ、日本代表チームをはじめ、イタリア・英国のトップチームでサッカー選手として活躍。現役引退後、2009年より全国47都道府県を巡る旅をスタート。その中で日本文化の可能性を強く感じたことから、2015年に株式会社JAPAN CRAFT SAKE COMPANYを設立。日本酒を始め、日本茶事業を手がけ、さらには日本文化を国内外に紹介するメディア「NIHONMONO」をプロデュースしている。



[MEN’S EX Winter 2023の記事を再構成]

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