近年のファッションにおける最大のキーワード、“リバイバル”。本誌ではこれまで、その源流となった過去のムーブメントを断片的に紹介してきたが、ここで一度、50年にわたるトラッドファッションの歴史を総まとめしてみよう。解説役は我らが指南役・中村達也氏だ。
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“クラシコ=全身イタリア”は
日本が作ったイメージ
2000s
クラシコイタリアはトラッドMIXだった!?
’90年代後半に端を発し、2000年代中頃まで栄華を誇ったクラシコイタリアブーム。正確にいうと、クラシコイタリアとは、ピッティに出展する多くのブランドも加盟する「クラシコイタリア協会」のことを指すので、単に「クラシコ」と表現するのが適切でしょう。我々としては、“イタリアにクラシックスタイルが存在する”ということが何より衝撃的でした。当時の認識では、イタリアといえば3Gのようなデザイナーズ、あるいは単なる生産拠点というイメージだったのです。それだけに、サルトリア仕立てのスーツをビシッと着こなしたイタリア紳士たちのエレガンスは鮮烈でした。日本では一躍その装いが脚光を浴び、“イタリアオヤジ”がファッションアイコンとなっていったのです。
イタリアン・クラシックは英米のトラッドと真逆の世界……と思いきや、実は必ずしもそうとはいえません。当時の日本では全身イタリアブランドで固めるのがクラシコとされていましたが、実は本場イタリアの洒落者はチャーチやエドワード グリーンを愛好していましたし、生地も英国製を最上級とみなしていました。今でもイタリア人は“Molto Inglese”を褒め言葉として用います。イタリアン・クラシックの実像は、トラッドMIXにあったともいえるのです。
’00年代中頃までのイタリアン・クラシックは、いかにエレガントにキメるかを競うようなところがありました。真夏でもビシッとタイドアップして、ドレスアップの粋に酔いしれる……といった感じです。そんなムードにも少々疲れてきたころ、登場したのがボリオリでした。シャツにもジーンズにも、下着にまでアイロンをかけるイタリアの文化に、ウォッシュ加工という新機軸をもたらしたのです。以降、ノータイにノージャケ、スニーカーやショートパンツなど、イタリアンスタイルに急激なカジュアル化の波が訪れます。洋服のスリムフィット化は極限まで進み、ジャージーや軽量ジャケットも一般化。この時期においては、トラッドの要素は鳴りを潜めていました。