時代の周回期にあたる
今こそ“基本”が大切
2010s
クラシック回帰英国調の復権
そんな潮目が変わってくるのは’10年代中頃。ブランドやショップのオーナーが次々と世代交代し、新しい感性を備えた20〜30代のニューリーダーたちが次々と頭角を現し始めます。往年のトラッド・ムーブメントを知らない彼らが心を奪われたのは、太めのラペルや低めのゴージ、プリーツ入りのパンツやサイドアジャスターつきのベルトレスウエストなど、’80〜’90年代のムードを備えたテーラリングでした。いわゆるクラシック回帰の始まりです。それまでイタリアではほぼ皆無だったタブカラーシャツを頻繁に見かけるようになったのもこの頃からでした。このあたりからヘリテージやヴィンテージといったムードも高まり、かつて一世を風靡したトラッドテイストが次々とリバイバルを果たしていきます。アイビーから続いてきた歴史が今、遂に周回を迎えようとしているのです。
2020s
時代は“リバイバル”へ
フレンチ、ブリティッシュ、アイビー、ヘビーデューティetc.現在のファッションシーンは、50年のファッション史を築いた多様なトラッドがごった煮になっているような状況です。懐古趣味に陥らないためにはそれらをいかにミックスするかが鍵であり、実際に今の若者たちの装いには、往時では考えられないような合わせ方も見られます。もちろんそれは時代の流れとして歓迎すべきもの。しかし、トラッドの歴史を知り、それを基本と踏まえたうえで自由な着こなしを楽しむのと、ただ感性だけに頼って着るのとでは、表現の幅も装いの深みも違ってくると思います。ですので、ビームスの後輩たちには“表面的になぞるだけでもいいので、ひととおり歴史をおさらいしてみては”と勧めるようにしています。今のリバイバルが今後しばらく続くのか、すぐに次のムーブメントが現れるのかは、正直定かではありません。しかし間違いなくいえるのは、スーツやジャケットをはじめとするドレスクロージングは今後、“好きな人”が着る嗜好品としての側面が強くなっていくということです。そんな時代において、先人たちが生み出してきたメンズファッションのムーブメントを自分なりに学び、継承していくことは、決してマイナスにはならないと思うのです。
Beams Creative Director
中村達也 Tatsuya Nakamura
Profile
1963年生まれ。アイビーでファッションに目覚める。大学時代にビームスでアルバイトを始め、卒業後に入社。フレンチアイビー、ブリティッシュ、クラシコといったムーブメントをリアルタイムで経験。日本のドレスファッション史における最重要人物の一人。
[MEN’S EX Summer 2022の記事を再構成]