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加藤 コンペ以外の設計に関しては、引き受けるかどうかの判断はどこに置かれているんですか?

隈 大きな案件でも以前の仕事の繰り返しになりそうな仕事は断っていて、小さい規模で設計料は微々たるものでも場所や頼んできた人が面白そうなものは引き受ける。面白い仕事の分量が会社の中で増えると、みんなのインセンティブが上がってくるから。

加藤 みんなが楽しんで仕事をすることでレベルも上がって、良い人材も集まってきて、いい循環が生まれるんですね。ちなみに最近引き受けた面白いプロジェクトだと、どんなものがありますか?

隈 南米のコスタリカから大きな都市開発の象徴となるパビリオンの設計を依頼されて、規模は小さいけどコスタリカに行ってみたくて、 引き受けた(笑)。他にもデンマークで童話作家アンデルセンの新しい博物館の設計をしたんだけど、デンマークはあちこちの街を訪れてみて、環境政策やコンパクトシティの文化にもともと興味があった。縁って不思議だよね。

加藤 海外に自分の建築が残るのは、どういうお気持ちですか?

隈 完全に観光客として旅をするんじゃなくて「よく帰ってきたね」と言ってもらえる場所ができることは、親戚ができたみたいな気がする。そういう人間関係が自分にとっては一番の財産だと思ってる。

加藤 建築は職人の方々とも人間関係を構築することが大切な仕事ですよね。建築家に必要な才能もやっぱり人間力なんでしょうか?

隈 例えば広場を設計するとして大人の視点だけでなく「どうしたら子どもにも楽しんでもらえるだろうか」と子どもに感情移入できるかどうか。そういうパーソナリティを持っているかは、採用面接で設計したものを本人に説明してもらうと自ずとわかるよね。

加藤 採用する際に最も大切にしているポイントは何ですか?

隈 一人に任せるんじゃなくてパス回しで設計していくので、みんなと仲良くできて、溶け込めるかどうかは大事だね。ちなみにうちは通年で採用をしているので、下手すると2週間に一回くらいの頻度で5〜6人まとめて面接をしているんだけど、おかげで日本の企業にある「新卒の正規入社がエリートだ」という固定観念もないし、国籍も年齢も様々な人間が集まってくる。チームを一つの色に染めないことは重要なことだと思う。

加藤 ほとんどが新卒しかエントリーできないアナウンサー試験とは真逆ですが(苦笑)、隈さんの採用方針は時代に適っていると思います。ちなみに教育者としても大学で教鞭を執られていますね。

隈 自分の自慢話になるのが嫌だから(笑)、企業からお金をもらって学生と一緒に実際にパビリオンを造るとか、大体プロジェクトを一緒にやる。そうなると予算を守りつつ実際に建てなきゃいけないから、学生がどんどん伸びていくのを感じるし、彼らも先生と同レベルで話すことで自信が付くよね。僕が大学院時代に在籍した研究室の恩師である原 広司先生も、 作品を見たり本を読んだりしている限りだと天の上の人みたいに感じちゃうんだけど、西アフリカ集落の調査に同行したことがあって、サハラ砂漠で2ヶ月間寝袋を並べて野宿してみると「先生ってなんでこんなに無邪気な人なんだろう」と思ったんだよ。そのときに「この子どもみたいな原先生でもあんなすごい建築が造れるなら、僕も建築家になれるかもしれないな」って(笑)。原研究室は多くの建築家を輩出しているんだけど、それはありのままの自分を学生に平気で見せることで、彼らが逆方向の意見も言いやすい雰囲気があったからだと思う。

加藤 だから隈さんも所員や学生とフラットな関係を大事にしていらっしゃるんですね。

隈 縦割のヒエラルキーを作るとトップと下の人間が一度も話したことがないという状況が生じるけど、僕はほとんどのスタッフと打ち合わせをするし、新卒の場合はその一人に小さなプロジェクトを任せて、一対一で話すことで能力を確かめるようにしている。

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