「失敗を恐れない文化を。自由な空気から生まれたものが海外で評価されています」
(隈さん)
加藤 今後はどういう建築が必要になってくると感じていますか?
隈 「閉じた箱を造ってどんどん大きくしていこう」というのが古代からの建築の一本の道だったけど、コロナ以降は「そもそも閉じた箱から出よう」と反転して、建築のあり方が全く変わりつつある。今は箱から飛び出しても自由に世界と繋がることができるから、籠っている必要がないわけ。
加藤 「閉じた箱」とは高層ビルのことですか?
隈 そうだね。オフィスビルに人間を詰め込んで仕事をさせるのはインターネットがない時代は一番効率的だったけど、ストレスを生むだけで楽しくないし、都市の一極集中は環境的な問題も大きい。
加藤 コロナ以降は東京と地方の二拠点にする人も増えましたね。
隈 実際にうちの事務所でも、 「一人サテライト」を推奨しようと思っていて、今までは地方の現場へ東京からチェックをしに行っていたんだけど、コロナ禍でそれができなかったので「だったら住んじゃえよ」と(笑)。結果的に富山の山奥と石垣島に一人サテライトを作って、配置された所員なんかはみんなに羨ましがられている。他にも北海道の東川町にもプロジェクトがスタートしたこともあって、3〜4人を送り込んで事務所のブランチを作ろうとしている。
加藤 日本で230人いる所員の中から、どうやって適材適所の配置をされているのでしょうか?
隈 「あいつはちょっと北海道っぽいよな」とか(笑)、ある種そういう直感で決めている。一方で大事なのは「合わなかったら、帰ってくればいいよ」と。建築も何事も失敗を恐れないで、試行錯誤をどんどん積み重ねていくことが大切だと思う。大きな企業ほど保守的で、失敗すると「正規のルートを外れた」みたいな見方をされるけど、それは日本にとってすごい損失。だからうちは「失敗を恐れない文化を作ろう」と。そういう自由な空気の中から生まれたクリエイティビティが、海外で評価されているのかもしれない。
加藤 海外の会社の方が失敗を恐れない気風がありますか?
隈 国民性もあると思うけど、特に中国はそういうムードが強いね。民間企業が新しいものにチャレンジしようっていう意欲がすごくあって、ほとんどが創業社長だから、決断も早いしリスクも恐れない。
加藤 失敗ばかりを気にしないで、挑戦を楽しむ姿勢は私も忘れないでいたいです。最後にこれから隈さんが実現されたい建築は?
隈 少子高齢化の時代なので、年寄りのための施設と、子どもを産むための施設が重要だと思ってる。
加藤 ご高齢の方々と親が働く家庭の子どもたちが一緒に過ごせる施設はどうでしょうか?
隈 それも絶対に必要だね。多様なキャラクターがいると、うちの事務所もそうだけど、気づきがあるし、空気感が変わるから。
加藤 人々のマインドや生活を変えるような建築を、これからもスピーディなパスワークから生み出し続けてください!
カトMEMO
- 相手の立場に関係なく、フラットな目線で対話できる。
- 自らが体感し、改善が必要と感じたことは実践する。
- 物事を柔軟に捉えて、プラスに受け取る思考が大切。
- 飾らないことこそが格好いい。
- 失敗=ダメではない。失敗を恐れずに挑戦をすることの方が大事。
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[MEN’S EX 2020年12月号の記事を再構成]
撮影/前 康輔 スタイリング/後藤仁子 ヘアメイク/陶山恵実 文/岡田有加(81)