魔物級にお洒落なパリ人たちの考え方
そもそも魔物級の活動領域は、自宅と職場、カフェやパーティや友人宅などの社交の場という、三角形の中で完結している。仕事もプライベートも充実しているので、「通りに出る」つまりデモに参加して不満を訴える必要もない。だから遊びの外出でもない限り、公の場でなかなか目にしない。そこに加え、お洒落をするとか装うという概念が、自分の好きなアイテムや素敵モノ・優れモノで身を固めれば一丁上がり、から程遠い。まず天気、TPOや会う相手への礼儀といったものを前に、自分自身の然るべき在り様というか個人の尊厳といったベースがあって、そこに体裁や体面、見栄も無論あるが、節度や遊びや機知といったトッピングが加味される。それでも毎度、そつのなさだけに終わらない、きれいなシナリオが描けてストーリー性のある装いをできるのが、魔物級の魔物たるゆえんだ。
ようは三角形のうち、職場やカフェはパブリックな場だが、それ以外は自らのプライバシーという結界の中にあり、車は双方の領域を結ぶツールであり装いの一部であり、後者の輪の中にいる人々は自分同様に守るべき存在でもある。余談だが、不倫を含む恋愛に鷹揚なお国柄も、このプライバシーの感覚にちなむ。
内装に凝ったフランス車が多い理由
かくしてパリの魔物級の車選びは、外に向かって強烈アピールではなく、プライベート空間たる内装にこだわる(決して密室のことではない)。近年はDS 7クロスバックやプジョー5008/3008といったフランス産の都会派SUVが、そうした要求を満足させている。本国でPHEVをはじめフランス車のパワートレインの電化が進み、それが受け入れられ始めた背景もある。それに元よりパリでは、「格上げアクセ」みたいな高級車を転がしている方が、逆にコンプレックスの塊と見なされて恥ずかしい、そんな小意地の悪い圧もある。
SUVの外観はわりと似たようなプロポーションのものが多いが、プライバシー大事の人々にとっては悪目立ちしないことが基本。内装についても視覚的にガチャガチャしておらず、落ち着いて居心地のいい空間であることが求められる。フランス車がとくに現地の人々の好みに合うのは、操作ボタンの類が少なくエルゴノミックであること、そしてクロームや加飾パーツがギロギロしておらず、むしろ全体的にマットな質感で「コクーニング」という、繭の中に包まれたような効果があるところだ。ラウンジ風のマット質感で艶っぽい内装はDS 7クロスバックの大きな特長だし、操作系を少ない要素に切り詰めて小径ステアリングとペダルに集中させるプジョーのi-コクピットは、きわめてドライバー本位のインテリアとして高く評価されている。