プライバシーを大切にするパリの
お洒落な男たちは地下鉄にそもそも乗らない
のっけから極論だが、パリでお洒落とされるような男の人は地下鉄に乗らない。逆に乗るのは、よほど事情がある時に限られる。そんなことはない、自分はパリの地下鉄でお洒落な人を見かけたことがあるとか、一時流行ったストリート・スナップでもお洒落パリジャンはいたはず、という声もあるだろう。だがここでいうお洒落なパリ男子とは、魔物級のお洒落達人のことで、日本でお洒落とされるようなイタリアの既製服などはハナから歯牙にかけていないような人々だ。
そういうパリジャンは、自転車なりスクーターなりバイクなり車なり、移動ツールを自前で確保している。ストライキが頻繁で、運行の乱れに対する自衛策という、あちら特有の事情もあるが、基本的に自分の時間というプライベートを公共交通機関のようなパブリックなものに左右されたくないのだ。営業職とか個人経営のオーナーといった急ぐ人々はスクーターやバイクを選び、ヤングや健康維持目的の人は自転車を、そして少し余裕あるビジネスマンは車を選ぶ。車は当然、渋滞もつきものだが、プライベートなスペースと時間が確保されるもっとも贅沢な選択肢だ。パリの中心部の建物は中庭、つまり外から見えない敷地内が駐車スペースになっていることが多く、空きは限られるが自営業でも会社員でも公務員でも、職種を問わずアクセスできる。
いわばパブリックなスペースに必要以上に出てこないし、出ていっても必要最小限、それが元より魔物級のお洒落人の生態だ。数年前はこうした中庭の風景は、官公庁でもない限りパリでもドイツ車が多かったが、近年はすっかりフランス車が目立って多数派を占めるようになった。日本でも、目に見えてフランス車を見かけることが増えてきたのと、時期的にもほぼ重なる。