日本ガストロノミー協会 会長 柏原光太郎さんに聞く【旅の目的地になる、“ローカルレストラン”の価値】

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知的で素敵なLUXURY LIFE 50の実例

膨大な情報に溢れる現代。経験と知識をどう得て、賢く楽しむか? を、衣食住遊~学・整まで、50の実例に。日常に“光=LUX”を与えてくれる新しい価値観をぜひご覧ください。

[実例31/食]
そこが旅の目的地になる、“ローカルレストラン”の価値を知る

柏原光太郎さん

[教えてくれた人]
日本ガストロノミー協会 会長 柏原光太郎さん

1963年生まれ。ガストロノミープロデューサー。日本ガストロノミー協会会長、食の熱中小学校校長、「美食都市アワード」審査委員などを務める。著書に『ニッポン美食立国論』、『東京いい店はやる店』。

素材の良さを突き詰めると、結局はその産地に行き着く

「遠くても、食べに行きたい」、「あの場所で、あの料理を味わいたい」。今、おもしろいレストランが地方にポツポツと増え、国内外の美食家たちから注目を集めている。なぜ今、地方のレストランが元気なのだろうか? 

日本ガストロノミー協会会長の柏原光太郎さんによると、「日本で最も一流の食材が集まる都市といえば東京です。それを調理する素晴らしい技と感性をもった料理人が国内外から集まる東京は、美食都市として世界をリードし続けています。ミシュランガイドの星付きレストラン数が世界中で最も多い都市は、東京なのです」。

ではなぜ今、東京ではなく地方なのだろうか。

「地方を目指すシェフが増えている理由の一つが食材の鮮度です。東京では、地方から食材が運ばれてくるまでに、多くの時間と手間がかかります。その分、やはり食材の鮮度が落ちてしまうのです。食材の鮮度は料理の風味や栄養価に直接影響するので、非常に重要です。新鮮な食材にとことんこだわる料理人たちが今、地方を目指す理由はここにあるのです」。

なるほど、生産地と調理場は、近ければ近いほど、生きのよい素材が手に入り、鮮度のよさは素材本来の味を際立たせるというわけだ。

「辺境とも言える地で、その風土や生産者たちとしっかり向き合い、料理を提供するシェフたちの動きは、今、国内で同時多発的に起こっている現象です。シェフたちも料理のジャンルではなく、自分にしか作れない独創的な料理を、自信をもって提供しているのです」と柏原さん。

さらに、地方のレストランを訪れる愉しみは、その土地の水や空気、香りなど、その土地の恵みが、五感を通して刺激を与えてくれることだという。

「厨房から消えたと思ったら、庭先でハーブを摘んできて料理の仕上げに添えてくれる、あるいはその日の朝、近くで採れた山菜をメニューに加えてくれたり。これほど豊かな食体験は、都心のレストランでは叶いません」。

その日の朝に摘んできた新鮮なハーブ類
カウンターを彩るのは、その日の朝に摘んできた新鮮なハーブ類。
宮崎県椎葉村に古来伝わる平家胡瓜
黄色のウリのような野菜は、宮崎県椎葉村に古来伝わる平家胡瓜だ。

人が起点となって地方に美食のコミュニティが生まれる

我が国ではまだまだ交通の便が悪い立地ではレストランは成り立たない、と考える向きもある。しかし、個人が発信力を持ち、常に最新の情報が得られる時代においては、店の魅力が不便さを凌駕する。地方のレストランを訪れてみると、都会より何倍も自由でガストロノミックな料理に出会えることに驚かされるという柏原さん。

「彼らの共通点は地元の素材を個性的な料理でもてなすこと。それは郷土料理とはまた趣が違い、まさしくそのシェフにしか表現できないオリジナリティあふれる料理です。その先駆けと言えるのが、富山県南砺市にあるオーベルジュ『レヴォ』。人口500人足らずの利賀村に、この店だけを目指して、今やインバウンド客だけでも年間1000人以上が訪れています」。

それほどまでに世界中のフーディたちを熱狂させている料理とは?

「スペシャリテとして提供されるのが、“レヴォ鶏”とも呼ばれる、谷口シェフのために育てられた鶏のもも肉を用いた一皿。食器やカトラリーなども、ほぼすべて地元の工芸作家に依頼したものが使われています。運よく宿泊できれば、利賀村で育った食材とその辺りの郷土料理の朝食が食べられます。この内容が、また素晴らしい」。

レヴォ鶏
こちらが「レヴォ鶏」。指定農家が育てた生後40日の若鶏の腿に、胸肉、熊の内臓と掌、お米を詰めている。
レヴォの朝食
宿泊客だけが食せるレヴォの朝食。利賀村の畑や山の景色とそこに住む動物たちが思い浮かぶような味わい深さ。

SNSなどで情報を得た海外のフーディたちが、自国からわざわざ東京ではなく、富山の小さな村にあるレストランを訪れる。そんな食体験こそが、今、クールな旅になっている。さらにもう一軒、柏原さんが最近注目しているレストランが長崎県にあるという。

「雲仙市の在来種野菜を主役に、その本来の味を最大限に引き出す料理を提供している『ビアード』です。オーナーシェフの原川慎一郎さんが、長崎雲仙で長年在来種の種をずっと育てている岩崎政利さんの野菜に惚れ込んで、東京の繁盛店をたたみ、雲仙・小浜に移転してオープンさせたレストランです。そこでは、雲仙の在来種野菜の力を強く感じられる料理に出会えます。その風味や食感をダイレクトに味わえる素晴らしい料理の数々です」。

美味しいものを、より美味しく愉しませてくれるローカルレストランは、今後もまだまだ増えていくに違いない。都心で待っているだけでは本当に美味しい料理には出合えない。自分から出掛けて行かなければ。今、“真に豊かな食体験”は地方にこそあり!

都心から日帰りもできる注目すべき「ローカルレストラン」

まず手始めに、関東近県のローカルレストランを柏原さんに教えてもらった。その地域でしか採れない食材と一流シェフの感性との化学反応を堪能してほしい。

愚直なまでに魚と向き合うフランス料理
馳走西健一【静岡・焼津】

静岡県焼津市にある「サスエ前田魚店」という魚屋をご存じだろうか? 今、全国の一流シェフが前田尚毅さんの魚を求めて焼津に集まるようになった。その魚に惚れ込んだ一人が、西 健一シェフだ。料理は前田さんの魚を主にした駿河湾の魚介を使う「駿河キュイジーヌ」を掲げる。「前田さんの魚の鮮度に感動し、広島にいる場合じゃないと、家族を説得して焼津に移転した西さん。個々の魚に見合った調理方法が的確で、特にスペシャリテのパイ包は必食。すでにインバウンドも数多く訪れているから、行くなら今だ!」。(柏原さん)

パイ包み焼
「広島時代からのスペシャリテであるパイ包み焼は焼津に来て、さらにヴァージョンアップしています。わずか1日半の流通時間の差が、これほどまでに味の感動を与えるという事実こそが、まさにデスティネーションレストランの原点なのでしょうね」。(柏原さん)
馳走西健一

馳走西健一
静岡県焼津市西小川4-8-9
TEL/050-5589-3582
営業時間/昼12時〜 夜18時〜(いずれも一斉スタート)
不定休

色彩・香・スパイスで魅せるモダンバスク料理
ヨシキ フジ【茨城・常陸大宮】

もともとは、フランス料理のシェフだった藤 良樹さんが、函館にあるバスク料理の日本の第一人者、『レストラン バスク』の深谷宏治シェフとの出会いをきっかけに彼に傾倒して師事。その後、藤さんはスペイン、サンセバスチャンにある三つ星レストランなどで修業し、帰国後に夫婦でゼロからこのレストランを立ち上げた。「東京から特急で2時間半ほど、丘の上に立つバスク料理店。テラスでおだやかな風を感じながら食べる料理が、何とも言えない素晴らしい体験です。茨城の食材の奥深さを心底感じさせてくれます」。(柏原さん)

風土
「『風土』と名付けられた、50種類以上の野菜に、2時間以上かけて煮たり蒸したり焼いたりと、各々の野菜に合った調理を施した一皿が見事。食材すべてが茨城産という地産地消のバスク料理を食べられるのはここだけ。里山の景色を楽しむランチに」(柏原さん)
ヨシキ フジ

ヨシキ フジ
茨城県常陸大宮市石沢字上ノ坪1107-1
TEL/0295-53-0330
営業時間/昼12時〜15時30分 夜(要相談)
定休日/月曜・火曜日

一覧はコチラ: 「知的で素敵なLUXURY LIFE 50の実例」



[MEN’S EX Summer 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)

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