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それまでのトランクの模様といえば、持ち主を示すイニシャルだけが描かれたものだったが、創業者ルイ・ヴィトンのイニシャルと幾何学模様や植物のモチーフを組み合わせたこのデザインは、当時の常識を大きく覆した。

当初はジャカード織りで作られていたが、コーティング技術が進化すると、1904年以降にはプリント・キャンバスも登場した。これはまず無地のキャンバスに樹脂をコーティングし、モノグラム・モチーフをブラウンの地にイエローベージュでプリントし、オリジナルのダマスク風モチーフを再現したもの。この手法は、1959年以降にモノグラム・モチーフがソフト・キャンバスに使われるようになった後、今に至るまで継承されている。100年先まで使える技術を開発できたことは、まさにメゾンの力といえよう。

モノグラム・キャンバスのモチーフ柄は、1つでももちろん美しいが、揃えていくほどさらに美しく、楽しい。当時世界を旅する者たちも、自身の愛用するトランクに加え、衣装ケースほか、旅回りの多様なアイテムをコレクションしていきたかったに違いない。2022年8月に東京で開催されたルイ・ヴィトンの巡回展「SEE LV展」では、1900年代にオーダーされたモノグラム・キャンバスの折り畳み式ベッド・トランクや、トラベル用ワードローブケースなどが展示されたことからも想像がつく。こうして160年以上にわたるメゾンの象徴的モチーフとして、当初のトランクから世界を広げ、ボストンバッグや財布、革小物類にまで取り入れられるようになった。また今では、ストールやアクセサリーにも用いられている。

1887年の広告ポスターの一部
©ARCHIVES LOUIS VUITTON

1887年の広告ポスターの一部。配達馬車の荷台には、ルイ・ヴィトンのトランクがたくさん積まれている。


鞄から財布へとサイズが小さくなってもなお、モノグラム・モチーフに存在感があるのは、1世紀以上前に商標登録されたこの柄の完成度が高い証だ。

そして熟練職人によるステッチの美しさやポケットなどの機能美、堅牢性も兼ね備えるからこそ、長く愛用できるのだ。

とはいえ10年、20年と使い続ければ、財布のステッチがほつれたり、また鞄のハンドルが傷んだりすることもあるかもしれない。そんなときには、リペアサービスを使えばいい。パリのアトリエと同じ技術を習得した専属職人が、フランスから取り寄せた純正パーツを使って丁寧にリペアしてくれる。新たな息吹を吸い込んで手元に帰ってきたアイテムは、よりいっそう愛着がわく。

モノグラム・キャンバスのトランク
©Collection Louis Vuitton
©Collection Louis Vuitton / Patrick Gries

上:1906年、モノグラム・キャンバスにペインティングされた婦人用トランク。
下:1900年のモノグラム・キャンバスのトランク。


1世紀以上続いてきたモノグラム・モチーフには、近年、少しずつ遊び心も加わってきた。とりわけ斬新なのは、2022年秋冬コレクションの「ポルトフォイユ・スレンダー」。故・ヴァージル・アブローによるテーマ「This is not monogram」に相応しく、あえてメゾンの象徴であるモノグラム・モチーフをぼかしてあしらったパターンに、さりげなくカーブを描くアウトラインが際立つ。一見シュールでありながら、あらゆるポケットにすっきり収まるスリムなデザイン、そして実用的で多機能な財布は、メゾンのモノ作りの精神を決して忘れてはいないのだ。

クリエイティブでありながら、エレガントで、実用的。このすべてを叶えることは、簡単なようで難しい。ルイ・ヴィトンが生んだ「旅の真髄(こころ)」という精神は、それを今でも見事に表現し続けている。

お問い合わせ先

ルイ・ヴィトン クライアントサービス TEL 0120-00-1854

[MEN’S EX Autumn 2022の記事を再構成]
※表示価格は税込み

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