ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを紹介する人気連載「中村アーカイブ」。「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第55弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.55 / クロケット&ジョーンズ チェアマン
’90年代前半頃に購入しました。’89年に某誌の英国靴特集号が発行され、それを機に日本で英国靴の一大ブームが起きます。
それとほぼ同時期にBEAMSのロンドンオフィスのスタッフからの提案で、当時イタリアで流行り始めていたスクエアトウのラストをクロケット&ジョーンズで作ろうという企画が持ち上がりました。
当時の英国ではビスポークシューズでスクエアトウはありましたが、レディメイドではほとんど見かけることはなく、ある意味画期的な企画でした。何度もサンプルを作り出来上がったのが、イタリアの靴と同じ角があるスクエアトウともう少しマイルドなセミスクエアのセミブローグでした。
どちらもそれまでの英国靴にはない雰囲気があり、一つには絞れなかったこともあり、両方のラストを使ったセミブローグを並行して展開することになりました。
実際に店舗に並ぶとセミスクエアのタイプの方がお客様の評判も良く、その後BEAMS Fの定番モデルとして展開することになります。そのモデルがこのCHAIRMAN(チェアマン)でした。
BEAMSは’80年代中頃から当時GEORGE CLEVERLEY氏が顧問を務めていたロンドンのPOULSEN SKONE(ポールセンスコーン)を展開し、’87年頃にはビスポークのオーダー会も行っていたので、当時クレバリーラストと言われたチゼルトウ(ノミで削ぎ落したようなスクエアトウ)の存在も知っていました。
さらに’90年代に入りイタリアのブランドもスクエアトウが全盛になることを考えても、BEAMSのロンドンオフィスに先見の目があったと思います。
このモデルは’89年から始まった英国靴ブーム、’90年代のビスポークブーム、イタリアブランドのブームと、10年以上続いた本格靴のブームの中で、ずっと定番として展開していた人気のモデルです。
今となっては多くの英国ブランドがスクエアトウのラストを普通に展開していますが、このCHAIRMANはその先駆けとなったモデルです。
もう10年以上履いていませんが、BEAMS Fで初めて展開したスクエアトウの靴で、自分自身も初めて履いたスクエアトウの靴なので、これからもアーカイブとして残していきたい一足です。