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「苦境のときに逃げる人と、全人格をかけて責任を取れる人。分かれ道はどこに?」(加藤さん)

「苦境のときに逃げる人と、全人格をかけて責任を取れる人。分かれ道はどこに?」(加藤さん)

加藤 苦境のときに鈍感力の塊になってしまう人と、全人格をかけて責任を取ろうという人の分かれ道は、どこにあるんでしょう?

石橋 使命感ですね。僕の場合はたまたま創業者と同じ福岡県久留米市育ちで、中学校時代から石橋正二郎が寄贈した石橋美術館(現久留米市美術館)で画家の青木 繁による『海の幸』を観て感動したり、やはり石橋正二郎がコンサートホールとしての粋を尽くした石橋文化ホールにオスカー・ピーターソンの演奏を聴きに行ったり、ブリヂストンのDNAに直に触れて育ったこともあって、「逃げるわけにはいかない」という気持ちが強いんですよね。

加藤 とはいえ、周囲の人が引いてしまって、会社が「もう難しいかもしれないな」という空気感に包まれてしまったとき、逃げてしまう人たちの気持ちもわからなくもない部分もあります……。

石橋 僕も逃げたくなる気持ちがゼロではなかった。でも、2回目の修羅場のときは、ある友人が「受け抜く」という言葉をくれたんです。「お前は毎朝ニコニコしておけ。『どんな相談もすべて俺に言ってこい』という態度で受け抜け」と。

加藤 そのアドバイスの真意は?

石橋 受け止めるんじゃなくて、どんな問題でもすべて受けて、できることを一生懸命やる。残りの部分は、すうっと抜く。つまり、そうして覚悟を決めると「なんで俺ばかりが尻拭いをしなきゃいけないんだ」って気持ちが不思議となくなっていくんです。そのことでみんなも遠慮なくものを言ってくれるようになるので、何事も早い段階で手が打てる。当時は「人間は言葉一つでこんなに変われるんだ」と思いましたね。

加藤 そんな修羅場を二度もくぐり抜けた石橋さんが、Global CEOとして挑むブリヂストンの舵取りはどんな未来を見ているのでしょうか?

石橋 張り付け式のゴム底足袋から始まり、自動車のタイヤを開発して、日本とアジアのブリヂストンとなっていた第一の創業があり、第二の創業ではお話ししたように、新しい血とどうにか混ざり認め合うことで、世界のブリヂストンとしての存在感を確立できました。その上で今は第三の創業と捉えていて、創って売るというコアとしてのタイヤ事業をもう一度強くした上で、そのリソースを、次の成長分野としてソリューション事業、さらに新領域の探索事業に投入していく。もちろんカーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに貢献するサステナブルな企業として社会からの信頼を獲得することは大前提です。そうしたビジョンと共に、ロジックや数字で語る以外に、みんなのモチベーションを上げるパッションの創出も大事だと思っています。

加藤 月面用タイヤの開発もされていると聞きました。まさにパッションがかき立てられるプロジェクトですね!

石橋 JAXAとトヨタが共同で研究を進めている月面での有人探査活動に必要なモビリティの足元を支える金属製のタイヤの開発に着手しています。今日お越しいただいたミュージアムタワー京橋1階の道路沿いのショーケースにも試作品が展示されています。

加藤 ところで今回が4年間続けさせていただいたこの連載の最終回です。対談させていただいた企業や文化を背負ってらっしゃる方々の言葉や人生の中には、石橋さんも例外なく、これまでの時代と決別して変わらなければならない今だからこそ必要な、自分を律するきっかけを多々いただきました。本当にありがとうございました。

石橋 ただ、すべては終わってみれば結果論で、私のグローバル市場へのチャレンジもたまたまそこに巡り合わせがあっただけで、必然性はないわけです。何事もご縁でしかないですね。

加藤 私も「すべてはご縁」と思える、人間の器を磨いていきます。

石橋 僕は器が大きいわけじゃないんです。受け止められる器がないから、受け抜くんですよ(笑)。

加藤 はい、受け抜く、ですね!

カトMEMO

  • リーダーに求められるのは、決断力、覚悟、責任感。
  • 修羅場をかいくぐって、身につけた“受け抜く”力。
  • 日本と欧米との文化の違い、ビジネス視点の違いを身をもって経験することが、グローバルなビジネス感覚を養う。
  • 今の時代だからこそ、情報の取捨選択、自分なりの解釈、判断力が問われている。

※表示価格は税込み
[MEN’S EX Winter 2022の記事を再構成]
撮影/前 康輔 スタイリング/後藤仁子 ヘアメイク/陶山恵実 文/岡田有加(81)

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