ライバルにはない万能性という個性で勝負する4ドアクーペのRS 7
アウディラインナップの頂点に位置するRSシリーズ
ドイツのプレミアムブランドは際立って性能が高いスポーツモデルに通常ラインとは異なる名称を用いる。メルセデス・ベンツのAMG、BMWのM ハイ・パフォーマンス・モデルなどが、その代表例。そしてアウディでこれに相当するのがRSモデルである。この種のモデルの最高峰グレードには最高出力600PSを超える高性能なV8ターボエンジンを搭載。足回りも特別に固めてサーキット走行に耐える強靱な仕様に仕上げられるのが一般的だ。そしてアウディのRSモデルには、他にない明確な個性が与えられている。それは、サーキット走行にも耐える高性能車には極めて珍しい、万能性というキャラクターである。
高い性能を手に入れようとすれば、実用性を犠牲にせざるを得ないのが自動車技術の常識といえる。たとえば、コーナリング性能を高めるために足回りを固めた結果、普段使いに用いるには乗り心地が硬すぎるとか、高出力エンジンゆえに日常的に用いる低回転域では反応が鈍くて扱いにくいといったことが往々にして起こるのが高性能車の宿命なのである。ところが、アウディはこの常識を突き崩した。そこで主役となったのがクワトロとアバントである。クワトロとはアウディが先鞭をつけたフルタイム4WD、アバントはアウディが得意とする美しいデザインのステーションワゴンを指している。もともと悪路を走破するために誕生した4WDが舗装路を走る乗用車の性能向上に役立つことに最初に気づいたのはアウディだった。
高性能な4WDシステムと高い実用性の合わせ技
その原理は、実にシンプル。乗用車に装着されている4本のタイヤは、加速や減速をしているときは高いコーナリング性能を発揮できず、反対にコーナリング中は激しい加速や減速をするのが難しい。ところが、4WDであれば、通常は後輪もしくは前輪の2輪だけが受け持っている加速の負荷を4輪にバランスよく分散できる。このため、加速中でもコーナリングに性能を割り振る余裕がタイヤに生まれ、結果としてクルマの安定性を高めることが可能になった。この原理に基づいて開発されたのがクワトロで、1980年に他メーカーに先駆けて発表された。このクワトロが、アウディの歴代RSモデルでは全車に装備されている。ちなみに、いまでこそライバルメーカーも4WDを高性能車に採用するようになっているが、初代RSモデルであるRS2 アバントがデビューした1994年当時、これは極めて異例なことだった。
そして高性能を実現するために採用されたフルタイム4WDのクワトロが雪道など滑りやすい路面を走るうえで有利なことはいうまでもない。こうして、RSモデルは高性能車としては例外的といえる悪路走破性を獲得。万能車としての一条件を満たすことになったのだ。そして前述のとおり、初代RSモデルはRS2 アバント、つまりワゴンボディとして世に出た。これはもともとクワトロが万能性を備えていたことの影響でもあったはずだが、ワゴンとしたことで荷室容量が拡大し、万能性はさらに高まった。こうしたことがきっかけとなって、アウディ社内に「RSモデルをライバルたちにない万能な高性能車に仕上げよう」という機運が高まったことは想像に難くない。その結果、高性能車としては異例の快適性や運転のしやすさを獲得。そうした伝統は現在のRSモデルにも脈々と受け継がれている。