知的で素敵なLUXURY LIFE 50の実例
膨大な情報に溢れる現代。経験と知識をどう得て、賢く楽しむか? を、衣食住遊~学・整まで、50の実例に。日常に“光=LUX”を与えてくれる新しい価値観をぜひご覧ください。
[実例27/酒]
世界を酔わせる “SAKE(日本酒)” は、もはやビジネスリーダーの教養だ
「世界の富裕層を魅了する日本酒は、国際ビジネスの武器にもなります」

[教えてくれた人]出羽桜酒造 代表取締役社長 仲野益美さん
1961年、天童市生まれ。1984年に東京農大農学部醸造学科を卒業後、2000年に社長就任。山形県酒造組合会長、日本吟醸酒協会理事長を歴任。東京農大客員教授、東京大学非常勤講師なども務める。2023年には藍綬褒章を受章。
日本酒を知ることは、日本の文化と歴史を知ること
昨年末、日本の「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されたニュースが世界中を駆け巡った。「伝統的酒造り」とは、こうじを使って米や麦といった原料を発酵させて、日本酒や焼酎、泡盛、みりんなどを造る日本古来の技術のことだ。長い年月をかけて積み重ねられた知恵と経験をもとに、杜氏や蔵人たちは丁寧にこの技を磨き続け、今や世界に誇れる酒造りの文化を築き上げてきた。
「日本酒の起源は縄文~弥生時代ともいわれており、非常に歴史のあるお酒です。日本酒は、“並行複発酵”という、デンプンを糖化させる工程と、その糖をアルコール発酵させる工程を、同じ容器の中で同時に行う、世界でも類を見ない高度な技術で造られています」と語るのは、山形県、天童市に酒蔵を構える出羽桜酒造の4代目社長、仲野益美さん。


米どころの山形県は日本屈指の酒どころであり、“吟醸王国”とも呼ばれている。いくつもの酒蔵がひしめく中で、出羽桜酒造はフレッシュで華やかな香りと繊細な味わいの吟醸酒をいち早く手がけ、日本酒業界の発展に寄与してきたリーダー蔵でもある。
「海や山の食材が豊富で、水資源にも恵まれた我が国は自然豊かな四季のある国です。酒蔵が発展したのも、水がきれいな地域が多く、酒造りに適した土地が全国にあったことがあげられます。このように我が国の風土と伝統を象徴するのが日本酒といえるのです」。
日本酒は古来より日本という素晴らしい風土文化と深く結びついて、人とともに歩んできた歴史があるのだ。
世界に広がる“和食ブーム”が日本酒の海外進出を後押し
今、日本酒は海外からのインバウンド需要に加え、海外市場で躍進を続けている。なぜこれほど日本酒の輸出が伸びているのか。最大の理由は、世界中で日本食レストランが急速に増えていることだ。農林水産省の資料によれば、2013年には海外の日本食レストランの数は5万5000店ほどだったが、’23年には18万7000店となり、この10年だけでも3倍に増えた。
現在、アジア・米国など、世界35ヶ国以上に輸出を行う出羽桜酒造。毎年、海外に出かける仲野さんは、特にここ5年ほどの間に日本食の広がりを肌で感じるようになったという。
「2000年代に入ったはじめの10年くらいで外国人たちが徐々に日本食に目覚めてきて、11年以降、現在に至るまで、さまざまな国の人たちがあらゆる場面で寿司や天ぷら、刺し身、ラーメン、トンカツ、など、B級グルメも含め、日本食を食べるようになりました。13年に『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも、勢いを後押ししたのかも知れませんね」。
こうした日本食シーンの広がりに歩調を合わせるように、日本酒は海外市場をジワジワと拡大してきた。
日本酒は今、世界のトップソムリエやセレブをも酔わせる時代に!
国内をはじめ、アメリカやイギリス、フランス、イタリア、スペインなど、今や日本酒は世界各国でその品評会が開催され、世界の一流ホテルや星付きレストランのシェフやトップソムリエたちが、その豊かな味わいに魅了されている。
ロンドンで開催されている世界最大級のワインコンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ」で世界一の称号「チャンピオン・サケ」に2度輝くなど、国内外で高く評価されているのが出羽桜酒造の日本酒だ。

「今や、日本食レストランばかりでなく、現地のレストランでも日本酒は提供されるようになり、その洗練された味わいが、世界中の富裕層たちを魅了しています。日本酒はもはや“世界酒”ともいえる時代なのです」。
さらに、日本酒が実は、国際的なビジネスシーンにおいても、意外な役割を果たしてくれると仲野さんは言う。
「外国の方々と会食を楽しむ機会の多いビジネスマンにとって、日本という国を理解してもらうきっかけとして、日本の伝統文化が詰まった日本酒は、格好のツールになってくれるのです。ビジネストークの素材としても非常に効果的だと思います」。
今や世界のビジネスエリートたちがこぞって嗜み、一流企業のトップがこっそり学んでいるのが日本酒なのだ。
地域性や酒蔵の個性を味わうのも日本酒ならではの愉しみ方
酒蔵それぞれの地域性や醸造技術を活かした個性豊かな日本酒が楽しめる今、日本酒の魅力について仲野さんは、「日本酒には飲み比べの楽しさがあります。フレッシュな“生酒”と、長期熟成で奥深い味わいが生まれる“熟成酒”、それぞれ異なる魅力があります。生酒は、火入れをしていないため、新鮮な香りが楽しめます。一方、熟成酒は年月を重ねることで、まろやかで複雑な味わいが生まれます。この両極を飲み比べてみるのも日本酒の楽しみの一つかも知れません」。

かつては、酒蔵でしか味わえなかったしぼりたてのフレッシュでフルーティな生酒、そして、年月を重ねるごとに味わいが深まりまろやかになる熟成酒。次の記事からは、今、注目すべきフレッシュな「生酒」そして、「熟成日本酒」の魅力について紹介したい。


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[MEN’S EX Summer 2025の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)