快適性とスポーツ性をテクノロジーの力で

これをベースにしたS8がスポーティ路線をさらに突き詰めたモデルであることは想像に難くない。なにしろ、かつては優雅なサルーンボディに超高回転型の自然吸気V10エンジンを押し込んだS8さえ存在していたほど。ちなみにこのエンジンは、同じグループのランボルギーニが手がける当時のガヤルドと基本的に同じものだったといえば、どれほど刺激の強いモデルだったかが想像できる。
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もっとも、いくらS8といえどもフルサイズサルーンらしい快適性を忘れるわけにはいかない。より正確にいえば、快適性とスポーツサルーンのハンドリングを両立させることがS8には求められていたというべきである。
そこで最新S8に搭載されることになったのが、その名もプレディクティブアクティブサスペンションである。
アクティブサスペンションとは、路面から受ける入力とは関係なく、クルマ自身がひとつの意思を持って車輪の位置を制御できるシステム。このためS8はドライバーが乗り込もうとしてドアを開けると車高が瞬時に50mmほど上がって乗降性を改善するほか、側面衝突が避けられない場合には車高を80mm上昇させることで、ボディサイドに入った強度の高い部材で衝突車両からの衝撃を受け止める仕組みになっている。
さらにS8のプレディクティブアクティブサスペンションは前方の路面状況をレーザースキャナーやカメラセンサーによって読み取り、これに応じてサスペンションを伸縮させる機能を搭載。このため、たとえばガソリンスタンドやコンビニの駐車場に入るときに乗り越す高さ数cmほどの段差を通り過ぎてもまったくといっていいほど衝撃を伝えないなど、まさに魔法のじゅうたんのごとき快適な乗り心地をもたらしてくれるのだ。その効果には目を見張らされること請け合いである。
このサスペンションはコーナリング時にも威力を発揮する。普段はソフトなセッティングなのに、ダイナミック・モードを選べば大型肉食獣の筋肉を思わせる力強さでロールしようとするボディをフラットに支え、俊敏かつ安定したコーナリングを披露してくれるのだ。

しかも、V8 4.0リッターツインターボエンジンはV10時代の450psを100ps以上も上回る最高出力571psを発揮。さらに、ここに48Vマイルドハイブリッドを組み合わせることで、極低回転からでもスロットル操作に鋭敏に反応するレスポンスのよさとフラットなトルク特性を実現している。
フルサイズサルーンの快適性とスポーツ性をテクノロジーの力で押し上げたアウディ。そこには、彼らが標榜する「技術による先進」が文字どおり体現されているといって間違いないだろう。
文/大谷達也 写真/アウディ ジャパン 編集/iconic