最新型への進化でクルマとしての幅が広がった

スタイリングはなかなかに挑発的だ。顔つきがちょっとのっぺりとしているように見えるが、幅がやけに広くて迫力がある。大きなグリルをスポイラーが支えているようにも見えて、なんだかすごくレーシングカーっぽい。リアフェンダーは驚くほど張り出している。このあたりは最新アストンマーティンのデザイン的特徴だ。
そして圧巻はリアセクション。なんともユニークなリアランプデザインで、一度見たら忘れられない。最新のSUV、DBXにも同じ調子のリアデザインが採用された。これもまた最新アストンマーティンらしさということかもしれない。

インテリアもまた戦闘的なエクステリアの雰囲気と歩調を合わせてスポーティにまとめられている。以前のモデルや現在の兄貴分たちがどちらかというとエレガントさ重視であるのに対して、もうはっきりとスパルタン。スポーツカー的な要素を強調したかったのだろう。
2018年にデビューした現行型ヴァンテージを初めて試したときの印象もまた、“これはスポーツカー、随分とハンドリングマシンだ!”というものだった。前脚がとにかくキビキビとよく動いたのだ。もうちょっと落ち着いてくれてもいいのに。そんな風に思ったほどニンブルなキャラだった。
ところが昨年生産された個体を改めて試してみれば、記憶に残るヴァンテージと随分印象が違うことに気がついた。端的に言って、マイルドになった。前脚の動きには落ち着きとしなやかさが加わって、長距離ドライブもうんと楽になっていたのだ。とはいえ、その気になればもちろん動きをシャープにセットすることもできるから、クルマとしての幅が広がったと言っていい。これが熟成というやつで、おそらくマーケットの反応をみてランニングチェンジを施したに違いない。

V8エンジンはさすがに力強く、けたたましいサウンドを撒き散らしながら、恐ろしいまでの加速をもたらす。車幅が広いとはいうものの、乗ってしまえば意外に小さく感じられ、狭いワインディングロードでも存分に操ってやろうという気になる。やはり、スポーツカーの本性は隠せない。
スポーツカーであり、よくできたグランツーリスモでもある。ヴァンテージはどちらのカテゴリーでも優勢なモデルだと言っていい。
文/西川 淳 写真/橋本 玲、アストンマーティン 構成/iconic