ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する新連載「中村アーカイブ」がスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第10弾は……?
【中村アーカイブ】 vol.10 /ソメスサドルのブリーフケース
このブリーフケースは、1990年代後半頃にオーダーしたものです。今でこそイタリア製の柔らかくて軽いブリーフケースが世の中にたくさんありますが、’90年代は英国調のトレンドが続いていたので、質実剛健な英国ブランドのブリーフケースやダレスバッグ(ドクターバッグ)がドレススタイルに合わせる正統的なバッグとして注目されていました。
私も20代の頃はナイロンやレザーとキャンバスのコンビネーションのブリーフケースを仕事で使っていましたが、30代になると英国調のジャケットやスーツスタイルにそれらのバッグを持つのはミスマッチに感じ、当時積極的にバイイングしていた英国ブランドのダレスバッグを持つようになりました。
ダレスバッグはクラシックな英国スタイルにはとてもマッチするバッグだったのですが、とにかく大きくて重いのがネック。当時は電車に乗っていてもラッシュ時には周りの人たちに顰蹙をあびるほどで、日本で使うビジネスバッグとしては、車を使うエグゼクティブな人向けなのかなとも思っていました。
数年間使い続けて90年代後半に差し掛かったころ、当時BEAMSのオリジナルのバッグを多く手掛けていた(株)セルツの中川氏(現在ブリーフィングを展開するユニオンゲートグループのCEOの中川有司氏)が、私が持つ大きくて重い英国ブランドのダレスバッグを見て、「日本ですごくいいブライドルレザーのバッグを作るファクトリーがあるのでオーダーしてみないか」と提案をいただき、オーダーで作ったのがこのバッグです。
当時、ソメスサドルの事は知らなかったのですが、中川氏に聞くと北海道にある馬具を作る会社がハンドメイドで作るバッグと聞き、ヨーロッパの馬具ブランドと同じようなことをやっている日本のファクトリーがあるのかと、感心したことを今でも覚えています。
仕上がってきたバッグは、レザーのクオリティーも作りも自分の予想を超える完璧なブライドルレザーのブリーフケースでした。ただし、大きさはコンパクトになりましたがブライドルレザーが厚すぎて、結局重くなってしまったというオチもありました(笑)。
かなり気に入り数年間ヘビーローテーションで使いましたが、2000年代に入りイタリアのクラシックの流れが来ると、柔らかな仕立てのジャケットやスーツを着ることが増え、それに伴いバッグも柔らかくて軽いものを持つことが増えたこともあり、出番も少なくなりました。
もう10年以上使っていませんが、日本が世界に誇る銘品なので、私にとっては数少ない一生ものとして大切に保管しています。