ナポリに脈々と受け継がれる「血」を明日へつなぐ決意

「我々は服を作っているのではない。血を作っているのだ」。故・落合正勝氏の著書『クラシコイタリア礼賛』に記された、キートン創業者チロ・パオーネ氏の言葉である。7代に亘り服地卸を営む家系に生まれたパオーネ氏がブランドを立ち上げたのは、1969年のこと。氏はナポリのサルトが誇る技術を間近で目にするとともに、時代の変遷によってその継承が難しくなっていることを感じていた。そこでナポリに脈々と受け継がれてきた職人技術を用い”新しい時代の最高のスーツ作り”を掲げ、キートンを起こしたのである。情熱に呼応した腕の良い職人が結集し、草創期にはかのチェーザレ・アットリーニ氏がモデリストを務めた。
生地と芯地の完璧な融合、丹念なアイロンワーク、そして手仕事を駆使した縫製。美しさや着心地に関わるあらゆる要素に妥協せず作られるそのスーツは、袖を通した瞬間、体が優しく包まれるような感覚となって、その真価を着る者に伝える。近年はトータルブランドとして人気を博すが、すべてに本気なのは品質を見れば明らかで、何せ靴まで自社生産なのだ。外注生産をしないのは、彼らが服ではなく「血を作っている」からだろう。
工場はナポリの技術を次代へ伝える場
上写真はナポリ郊外の山間にある自社工場。1着のジャケットが完成するのにはおよそ150の工程、20時間を要するという。裁断やアイロンといった各工程は、専門の職人が担当。ここではベテラン職人が若手の指導も担当し、理念である技術の継承が行われているのだ。