リーダーとしてビジネスを牽引する男たちが愛読する本&愛用するメガネ。そこには、日々、厳しい競争の中で奮闘する彼らの思考法やビジネス哲学が宿っている。
Profile
カシワバラコーポレーション 代表取締役
柏原伸介氏
1980年生まれ。山口県出身。明治大学農学部卒。米国サンタモニカカレッジビジネス専攻卒。2006年柏原塗研工業(現カシワバラコーポレーション)に入社し、2010年、経営企画室長に就任。2011年、海外事業を立ち上げ、海外プロジェクト本部長に就任。常務取締役や専務取締役を経て、2015年3月より現職。2019年に創業70周年を迎え、建設、金融、不動産管理、IT、通信事業などカシワバラグループは国内外含め全14社に。
フィルターを外してくれる本に背中を押してもらう
「ほとんどメディアに出ることはない」という柏原伸介氏は、祖父が設立したカシワバラコーポレーションの三代目社長。プラントメンテナンス事業、マンション大規模修繕事業で売上を440億円以上にまで躍進させた若きリーダーだ。しかし、自身のキャラクターで会社をイメージづけたくないという。
「私たち建設業の使命は、お客様の人生を彩るステージを作ること。お客様の喜びこそ第一ですし、その実現のために最前線でハードな仕事を担う社員の姿こそが、何よりも会社を表しているんです」
このような理由で滅多にメディアに登場しない人だと知れば、かなり生真面目なキャラクターを想像するかもしれないが、柏原氏の語り口は実に軽妙。大企業の経営者とは思えぬほどカジュアルな空気を醸し出す。
「ほら、そうでしょ(笑)? だから余計に表に出るべきじゃないと思うわけです。この会社を『世の中を幸せに変える会社』にしたいし、それを実現するのは社員です。私はその中で社長という役割を引き受けているに過ぎません」
本の選び方にも信念がある。月に1回ほどのペースで書店へ行き、その時話題になっている本を買い込んで次々と読むスタイルだ。
「あえて意識的に、サラサラ読みます。世の中でどんなことが起きていて、どんな考え方が注目されているのか知れればいいんです。むしろ、特定の本に縛られたり、流されすぎたりしないように注意しているつもりです」
意識的な「広く浅く」の読書術。しかし『人生に、寅さんを。』には、いたく共感したという。
「帯にリリー・フランキーさんが『ボクたちは、寅さんの言葉に支えられて、生きてきた。』と書かれていますが、本当にその通りだと。寅さんのセリフって荒っぽいけれど、人生の重みや面白味を短い言葉で端的に表していますよね」
柏原氏は若き日の自分を「どら息子」と称し、「経営者の息子という恵まれた環境下でふわふわしていた」と振り返る。寅さんとはまるで無縁のように感じるが……。
「アメリカでの留学生活で、こんな奴にも平気で言いたいことを言ってくれる友ができました。彼らと洋服のブランドを起ち上げ、一所懸命に作った服が売れた時、仕事の喜びも知りました。そうして、ようやく『生きている』という実感を覚え、寅さんの言葉が胸にしみるようになったんです」
もう一方の愛読書は高城 剛氏の著書でありビジネス書。趣の異なるチョイスのように思えるが、柏原氏の胸の中で寅さんと高城氏はどこかつながっているようだ。
「高城さんはITやデジタルに関する著書が多いので、事業のことを考えて読んでもいます。建設業界だって先進技術はどんどん採り入れていくべきですから。ただ高城さんの特徴は、常識という既存のフィルターを外すような視点。それが実に痛快なんです」
他の産業よりも既得権益がビジネスに関わってくる建設業界ゆえに、新しいテクノロジーや手法を導入したくても、そう簡単にはいかない。それでもなお挑戦していこうという気持ちを奮い立たせてくれるのだという。
「思いのままにトライすればいいんだよ、と背中を押してくれる。高城さんの著作は、私にとってそういう本でもあるんです」
既存の価値観や常識にとらわれず、思いを口にし、行動する寅さんや高城氏。そんな彼らの自由さに共感を覚えることが多いようだ。
メガネは、使い道の多いフィルターとして活用する
一方、対照的なのがメガネに対する思い。柏原氏は「私にとってメガネはフィルターなんです」と言い切る。
「笑顔なのに、目だけは笑っていない人っていますよね(笑)。それに気づくとゾッとするじゃないですか。やっぱり目は心の内を語ると思うんです。だから、私は社員や家族と話す時にはメガネを外してコンタクトを付けます。目でもちゃんと真意を伝えたいから」
そう言いつつも、いくつものメガネを所有している柏原氏に理由を問うと、「だってフィルターで何かを伝えたい時だってあるじゃないですか」と笑う。
「強烈な相手と商談をするような時は、伊達メガネをかけたりもしますよ。フィルターというより”盾”みたいなものです」
つまりはケースバイケース。本の活用法とよく似ている。知識も言葉も身に着ける道具も、常に自分なりのバランス感覚を持って採り入れる。それが柏原流のこだわりであり、それを楽しんでもいる。
「私たちの仕事はとてもキツイ仕事。だからこそ、苦労を楽しむことが重要なんです」というセリフが、その生き方や働き方のすべてを物語っていた。