【森 万恭のライフフォト・エッセイ】#「字を書く」ということと毎日使う道具

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デザイナー/フォトグラファー【森 万恭のライフフォト・エッセイ】
気に入っている物を纏うこと、使うこと。

実は“こだわり”と言う言葉があまり好きではない。偏愛的な? マニアックな? と言うイメージが先行してしまい、なぜ? どうして? と問われても説明が難しいからだ。それよりも気に入っている……好きだ……と言ってしまった方が話が早い。気に入っている物を纏っているとワクワクし、少々自信も備わる。そして好きな器で食すれば、さらに美味しく感じ、好きな道具を使えば扱いも仕事も丁寧になる。言わば良いこと尽くめで日常も豊かになる。

モンブランの万年筆、ライヨールのペーパーナイフ、アドラーのハサミ

「字を書く」ということと毎日使う道具

業務連絡はもとより、知人へのご機嫌伺いも全てキーボード入力になってしまったが、目上の方からの便りや直筆での手紙などには僕もきちんとお返ししたい。また、字を書かない、または絵を描かないと手先が駄目になるような気さえする。

ある高名なインダストリアルデザイナーが「デザインは手がする」と言っていた。それまで僕は脳がするものだとばかり思っていたが、脳の指令を具現化するには手しかないだろうと言う意味だ。そしてその後に僕は脊髄を損傷し右手が少しだけ動かしにくくなり、細密なデザイン画を描くことが億劫になり、本当の意味での理解に繋がった訳だ。願わくば墨筆、そこまでは無理としてもインクを使う位は何とか出来るので、少しだけ居住を正して手紙を書くことを忘れないように心掛けている。モンブランを使っているが、これには特に理由はなく、最初は見た目で使い始めたが気に入ったので増えていった。作家シリーズなど含めてペン先の太さとインク色で使い分けている。

ライヨールのペーパーナイフは使わない日はない。開封、小荷物のテープを切る、紙を割くなどに使っていてなくなったら非常に困る。持ち手には銘木が使われていて色々な種類があるが、木の比重と刃のバランスを取る為に持ち手側に細かくまた不均一に金属の埋め込みがある。トレードマークの蜂の彫刻も気に入っている。さして重いものではないのだが、バランスが良いので手の一部と言う感がある。

ハサミはアドラーの23センチの長いものを愛用しているが、暗室照明の中で素早く印画紙をカットするのにこの刃の長さが丁度良く、代わりも見当たらない。またデザインも気に入っている。細かい作業をする場合にも同じブランドの手芸用を使っている。いずれもなくなると困るので丁寧に使い、またそのことによって愛着も増して行き、良い道具との関係性は深まるばかりだ。

【 Photo & Story 】

デザイナー/フォトグラファー 森 万恭氏

森 万恭さん
Kazuyasu Mori
東京・新宿生まれ。1977年にベイクルーズの立ち上げに参加。その後、退職するが復職後、エディフィス、エクアション パーソネルなどのブランドを手掛ける。’98年に(株)ワールドと契約しドレステリアを立ち上げ、服のデザイン、ショップの内外装設計や家具デザイン、バイイングコーディネート等を手掛ける。“最後は写真……”と決めていて2016年に契約を破棄し現在は写真家として活動する傍ら、アパレルデザイン、インテリアデザインも継続。好きな言葉は「丁寧」。ワイルドフラワーをこよなく愛す。ポケットビリヤードA級・スリークッションビリヤード4段、ヴィンテージ・ビリヤードキューのコレクター。
Instagram / @mori_photography


次回は……【#気に入っている香りを纏う】

[MEN’S EX Autumn 2022の記事を再構成]

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