ベネッセアートサイト直島のベネッセハウス ミュージアムがオープンし、今年で30年を迎えた。その節目ともいえるタイミングで、島内には「ヴァレーギャラリー」と「杉本博司ギャラリー 時の回廊」の2つのギャラリーがオープンした。
特にヴァレーギャラリーは、安藤忠雄氏によるベネッセアートサイト直島での9つ目の建築を含み、ちょうど谷間に位置する山々の緑に囲まれたロケーションに作られている。祠を念頭に置いたという設計は、ミニマムで直線的、鋭角に切り取られたスリットから差す光が、中の空間を鋭く照らす。
屋内外には大量のミラーボールを使った草間彌生氏の「ナルシスの庭」が、また池の周囲には小沢剛氏の「スラグブッダ88-豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏」が展示される。
池に浮かぶミラーボールは風に揺れ、ボール同士がぶつかり合い、カランカランとボール同士がぶつかり合う音はさながらアドリブの利いた音楽のようでもある。
また、直島に残る八十八か所の仏像をモチーフにした、スラグブッダ88は、豊島で不法投棄された産業廃棄物を素材に使っている。自然との共生、循環、さまざまなメッセージが込められたヴァレーギャラリーは、直島の聖域のようであり、また、「自然・建築・アートの共生」という直島のコンセプトを再認識させる存在でもある。
もう1つ誕生したギャラリーがベネッセハウス パークの「杉本博司ギャラリー 時の回廊」。こちらは現代美術作家である杉本博司氏の代表作、直島での建築作品「護王神社」の模型など、その創作活動の歴史を観ることができる。
さらに、屋外の水盤には、「硝子の茶室『聞鳥庵』」が設置された。フランスのヴェルサイユ宮殿やヴェネチア・ビエンナーレ、京都の京セラ美術館での展示を経て、硝子の茶室の終の棲家に選ばれたのが、直島であった。
既存の建築空間に新たな鑑賞スペースを創り出して完成した「杉本博司ギャラリー 時の回廊」。「時の回廊」には、多様な創造物を鑑賞し、自然環境を回遊することで、自然の変化や時間の流れを体感してもらいたいという思いが込められている。
建築、アートを通じて自然と対峙し「よく生きる」を考える。30年間にわたり、ベネッセアートサイト直島は、それを訪れる人々に問いかけてきた。そして、「在るものを活かし、無いものを創る」という発想のもと、30年間にわたり進化を続け、今年、新たに2つのギャラリーが誕生した。
直島を訪れると、そこかしこにちょっとした「作品」があることに気づかされる。島に住むお年寄りも熱心にアートを解説し、訪問者を笑顔で迎え入れてくれる。アートが日常に寄り添うことで、直島を訪れる人々のみならず、直島に暮らす人々にも心の豊かさをもたらした。アートを通じてどう生きるか、何を観て何を感じるか―。ベネッセアートサイト直島での滞在は、必ずや新たな気づきと発見へと導いてくれることだろう。
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