地元には農業や漁業を営んでいらっしゃる方々が多いこともあり、お裾分けを頻繁に頂きます。ある時ハタハタが200匹以上届いたときは、本当に驚きました。魚以外にも、サザエやアワビなどの貝類、フキノトウやワラビなどの山菜、カジメやモズクなどの海藻、シイタケやナメコなどのキノコ類……まぁとにかく豊かな里山の幸、里海の幸オンパレード。そして極めつけは、能登杜氏が地元で醸した日本酒です。これが食事に合わない理由がありません。


さて、ここで困ったことに気が付きます。地元の皆さまからお裾分けを沢山いただき、心から豊かな生活をさせて頂いているのに、私たち夫婦にはお返しできるものが無いのです。私たちは何かを作っているわけではありませんし、東京で手に入るものはインターネットなどで大抵手に入るので特別感がありません。その上、地元の皆さんはお返しが欲しくてお裾分けをしているわけではなく、お裾分けをし合うことを楽しんでいる(この感覚は最近ようやくわかってきました)のです。


さあどうしたものかと悩み、私たち夫婦が出した結論は「無理に何かを返そうとしない」ことでした。いずれ私たちがこの土地に馴染み、そして私たちらしいものを生み出せるようになったときに、このお裾分けの輪に入れて貰えば良いと思いました。いま思えば、私を移住に駆り立てたのは、このお裾分けがきっかけだったと思います。奥能登・珠洲市で、私たちらしいものを生み出す方法を真剣に考え方結果、出た答えが移住だったのです。
お裾分けから移住までのストーリーは、また次回、お話させていただきますね。今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
※写真は筆者撮影(次回に続く)

アステナホールディングス
代表取締役社長
岩城慶太郎
アステナホールディングス株式会社代表取締役社長CEO。慶應義塾大学総合政策学部卒、アクセンチュア株式会社戦略事業部を経て、2005年4月に同社入社。上場子会社社長などを経て2017年2月から現職。産業・技術・社会のサステナビリティを高める、社会課題解決型の企業グループへの変革に取り組んでいる。趣味はクラシック音楽と海釣り。