自然の流れに逆らうことなく、自然を慈しむことを知る
翌日は午前4時に起床。ご来光を拝むために近藤さんと山小屋でスタンバイしていた目の前に、神々しい光が姿を現しはじめた。山肌が徐々に朝日に赤く染まり始める。短時間で刻々と変化していく自然の移ろいに心が奪われる。雲海がとても美しく、ここまで登ってこられた達成感と満足感を改めて噛みしめる。程なく近藤さんが、前日から心配されていたこの日の天候など、最新情報を確認する。よく言われるように、山をなめてはいけない。富士山は特に天候が急変しやすい。晴れていれば大丈夫というものでもなく、風の強さにも注意を払う必要がある。
「山頂付近の天候は曇り。時折、風速10m以上のコンディションになります。同じ気温でも風が吹くと体感温度が下がります。風は、目で見ることも、予測することも出来ません。いつ来るか分からない突風を、予測して身構えることはプロでも不可能。突風でバランスを崩したり、登山道で突風にあおられふらっとして、岩や斜面から足を滑らせ滑落するリスクがあります。無理をすれば登れないこともありませんが、1時間ほど様子を見て考えましょう」(近藤さん)。
今回、梅雨明け前のタイミングということもあり、天候の悪化も予想されるとのことで事前連絡が入り、雨具はもちろん、フリースやダウンといった防寒対策もしっかり準備をしてきた。「登頂を目指して果敢に挑むのも良いのでしょうが、このプログラムでは、安全に気持ちよく登山をすることが最大の目的ですから、自然状況に応じて適切な判断をさせていただく場合もあります。山には山のルールがあります。下山するという勇気ある決断も、時には必要かもしれません」との近藤さんからのアドバイスに従い、頂上アタックを見合わせることになった。