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一流ガイド付きだからこそ感じられる景色がたくさんある

右:富士スバルライン五合目の出発地点。 左:この日はあいにくの小雨模様。
左:富士スバルライン五合目の出発地点。 右:この日はあいにくの小雨模様。ザックにカバーを掛け、上下レインウェアを着用してのスタートとなった。

登り始めて、まず近藤さんが教えてくれたのは、富士登山をラクにするための理想的な歩き方。「最初は気持ちが高ぶり、早く歩きがちになりますが、片方の足の前にもう片方の足を出す感じで、歩幅を狭くしながら登ることを意識してください。普段の歩行スピードよりもだいぶ遅いので、慣れるまではストレスになるかもしれませんが、実は、小さな歩幅にすることで、転びにくく、疲れにくくもなります。足を運ぶときには後ろは足を蹴らないように、ベタ足で歩くようにするのがポイントです。歩幅が大きいとハイペースになり疲労しやすく、高山病になりやすいので、ゆったりとしたペースで歩くことが大事です」(近藤さん)

体力に自信がない人でも、小股歩きなら優しく登っていける。「こんなにゆっくりで本当に大丈夫なの?」と思うぐらいでちょうどいい。そして、六合目に到着すると今度は、初心者がかかりやすい高山病の対処法として深呼吸が有効だと教えてくれた。「大きく深呼吸をしてください。できるだけ息を吐いて空にしてから、息をゆっくりと吸い込んでください」。シンプルな深呼吸だが、血液中の酸素濃度を上げてくれるので、息苦しくなってきたら深呼吸でカバー。七合目に入り傾斜がきつくなってきたと同時に、気温も下がってくるため、深呼吸を忘れず小まめに実践しながら歩を進めて行った。

左:最初の分岐点である「泉ヶ滝」にある案内標識。 中、右:六合目まで、森林の中をゆっくりと体を慣らしながら登っていく。
左:最初の分岐点である「泉ヶ滝」にある案内標識。 中、右:六合目まで、森林の中をゆっくりと体を慣らしながら登っていく。「亜高山帯の常緑針葉樹のコメツガの稚幼樹です。カラマツ林のような比較的暗い林床でもすくすく育つことができるんです。先端の黄緑色の部分が新芽なんですよ」(近藤さん)。 周囲の草木を楽しみながら、ゆっくりと高度に体を順応させてゆく。しだいに森林限界となり、ゴツゴツした岩の道になっていく。

富士登山では植物が生えない砂利や岩の斜面を登るイメージが強いが、大半の登山者がスタートする富士スバルラインや富士宮口の五合目付近には独特の生態系が見られる。「富士山は活火山であり、独立峰であることから、他の山には見られない独特の生態系を持っています。六合目近くで木々がまばらになり、丈も低くなって樹林が開け、さらに五合目から六合目へ登る途中で背の高い木は姿を消し、一面、砂利や岩の斜面に。六合目以上は樹林が見られなくなる森林限界になります」(近藤さん)。 

五合目付近から下は各登山口ともに針葉樹林で覆われ、森林限界付近では落葉樹も混じって、草地も点在している。「このあたりは花の種類も豊富で、薄暗い環境を好む植物は林の中に、明るい環境を好む植物は草地や林の縁に育っているんです」

くれば迷うことはない。 右:案内標識から富士山頂を望むと、落石防護棚が点在する
左:六合目の登山道標識。黄色で表示された案内標識は「吉田口登山道」の目印。黄色の案内標識に沿って登り、そして下山してくれば迷うことはない。 右:案内標識から富士山頂を望むと、落石防護棚が点在する。落石をさせないためにも、登山道の山側を歩行することを心がける。

六合目から森林限界を越えると、岩混じりの荒原、砂利や小石の砂礫地が広がり、富士山特有の景観が現れる。「荒原や砂礫地は養分となる土や水分に乏しく、砂利の斜面は崩れやすいうえ、強風にさらされるなど植物が育つには厳しい環境になります」(近藤さん)

標高が高くなるにつれて、気温が低下していくと植生も変化していく。六合目からはジグザグの砂利道になるが、休憩中に近藤さんが遠くに見える山々を解説してくれたり、高山植物を紹介してくれる。雄大な展望、可憐な草花に、しばし疲れを忘れる。このあたりから疲れやすくなるが、そんなときはちょっと上を見渡し、深呼吸をして気分転換をする。これから登る道と七合目と八合目の山小屋群が見えてくる。

重い荷物を置いて一息
重い荷物を置いて一息。近藤さんのアドバイスを受け、ゆっくり登ってきたお陰で七合目についても高山病になることもなく、体力はまだまだ十分。途中で雨も上がり、ご覧の絶景を堪能することができた。
左:昭和の時代を感じさせるレトロな雰囲気が魅力の山小屋「日の出館」。標高2720mの場所にあり、吉田口登山道七合目に位置する。 中:七合目からの絶景を見渡せる休憩用ベンチ。間隔を空けて座るようにコロナ対策がされていた。 右:山小屋の主人がコーヒーに甘いドーナツでもてなしてくれた。
左:昭和の時代を感じさせるレトロな雰囲気が魅力の山小屋「日の出館」。標高2720mの場所にあり、吉田口登山道七合目に位置する。 中:七合目からの絶景を見渡せる休憩用ベンチ。間隔を空けて座るようにコロナ対策がされていた。 右:山小屋の主人がコーヒーに甘いドーナツでもてなしてくれた。栄養補給でエネルギーをチャージするとともに、軽いストレッチをしたり水分補給をして体をいたわることが重要に。

登り始めて3時間が経過。富士山七合目の山小屋「日の出館」で小休止。七合目ともなると目下に雲が広がり景色も格別だ。山小屋のベンチも、間隔を空けて座るように張り紙で注意喚起。コロナ感染対策もしっかり取られていた。近藤さんが「こんにちは」と挨拶をすると、「ゆっくり休んでいってね」と、コーヒーとお菓子をサービスしてくれた。近藤さんと富士山に登ると、山だけじゃなく、そこに暮らす人々に触れる楽しみも味わえる。標高2720mでいただくコーヒー&ドーナツは、忘れられない味となった。

左)手を使わないと登れないほどのきつい傾斜。 (右) 近藤さんと会話を楽しんでいる
左:手を使わないと登れないほどのきつい傾斜。落石に注意しながら、小まめに休憩を入れて登り進める。 右:近藤さんとの会話を楽しんでいるうちにあっという間に、目印の赤い鳥居がある「鳥居荘」が目の前に。

七合目あたりから本格的な登山がスタートする。足元に小さな石や岩が増えてくる。傾斜が一気にきつくなるが、ペースを乱さず、小さな歩幅で少しずつ。足をとられてすべらないよう、注意してゆっくりと登る。近藤さんからの指示にしたがって、こまめに休憩を取り大きく深呼吸を繰り返す。「道は岩と砂礫となり、傾斜もきつくなってくるので呼吸が荒くなってきたら無理せず立ち止まって、深呼吸しながら適度に休息を入れましょう。肺にある空気をしっかりと抜いて、しっかりと吸い込みましょう」(近藤さん)

鳥居荘からの眺望
鳥居荘からの眺望。七合目を出発してほぼ1時間で「鳥居荘」に到着する。ここは標高2900m、七合目からの標高差は200m。眼下にはどこまでも続く見事な雲海が広がる。

進むと程なく、標高約2900mにある赤い鳥居が目印の山小屋「鳥居荘」が見えてくる。ここから100mほど登った場所にあるのが、本日の目的地、標高3000mに立つ山小屋「東洋館」だ。

右:「鳥居荘」から一日目の目的地のある山小屋「東洋館」を見上げる。 左:2007年にリニューアルされた「東洋館」
左:「鳥居荘」から一日目の目的地のある山小屋「東洋館」を見上げる。 右:2007年にリニューアルされた「東洋館」。水洗トイレ、Wi-Fiを備え、富士山の山小屋では圧倒的な広さと設備を誇る。富士登山が初めての方でも安心して登山が楽しめるようサポートしてくれる。近藤さんのペースと声かけで 全く疲れない富士登山を経験できた。

山小屋ステイの良い点は、夜通し登る山行にはない、ゆとりがあること。山頂までの道のりすべてをじっくり味わえる。「このプログラムでは、山頂でご来光を見る登山ではなく山小屋でご来光を拝むゆっくり登山を推奨しています。安全のためもありますし、そもそも江戸時代から、富士山はゆっくり登ってじっくり味わう山でした」(近藤さん)

山頂でのご来光にこだわらなければ、マイペースで余裕をもって、雲の上の富士山を満喫できるのが八合目付近だという。「実は、ガスが頂上を覆ってしまうことがあり、せっかく登ってもご来光が見えないケースも。ご来光待ちの時間は、最も気温が下がって寒くて大変な時間帯。山頂で風を防げる場所が確保できずご来光待ちをすると正直しんどい場合も多いのです」。

さらに、山小屋でのご来光は、体への負担もそれほど厳しくない。「ご来光を山頂で見ようとすると、山小屋を出発するのが宿泊する山小屋にもよりますが、深夜1時~2時頃に。その時間に山頂に向かって、暗くて足元が悪い登山道を歩かなければなりません。転倒もしやすく、高山病も寝不足と合わさってきついものになりやすくなります。

その点、山小屋でのご来光は朝5時頃までゆっくりと山小屋で体を休めて、ご来光を見てから明るくなって出発できるので、体への負担はだいぶ楽になります」。夜間に歩かないから絶えず見られる絶景、慌てず急がず、余裕を持ってゆったりと。あくまで、安心で快適に富士登山を楽しむことがこのプログラムの醍醐味だ。

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