純粋なコンパクトSUVを感じさせるT-Cross
Tクロスはもっと攻めている。何よりドライブトレインがいい。3気筒1リッターターボという、日本市場で買える欧州車の中ではフィアットのツインエアやルノー・トゥインゴ ゼン辺りに次ぐ小排気量エンジンだ。だがup! GTI譲りの116ps/200Nm仕様だけあって、踏み込むと威勢よくカイーンと金属的な快音を発して、よく回る。7速DSGのスムーズな変速動作と、ノーズ周りの軽さも手伝って、気持ちがいい。1270㎏というSUVならではの車重ゆえ、決して速くはないが、フットワークは軽い。このエンジンだけで、ポロではなくTクロスを選ぶ理由にもなりうる。
ただしTロックにも同じことがいえるが、Tクロスの内装は組みつけ精度や質感こそ大したものだが、ゴルフとポロというハッチバックのベースに対し、少し意匠面でパーソナリティというか特別さに欠ける。平たくいって、内装は同門のハッチバックに負けている。他社ライバルを見渡してみても、ルノー・キャプチャーほどSUVとしてハッチバックより冒険しているなと、そう思わせる部分がTロックとTクロスのインテリアには見当たらないのだ。
むしろTクロスの優秀さは全長4.1m強ながら、ひと回り大きな4.2m強のTロック以上となる、455リッターものトランク容量を確保した点にある。つまりTクロスは、ポロを補う良質のスモールカーにもなれる。いずれ両者とも本当に真新しい特長は、「WE CONNECT」というe-SIMベースの常時接続環境で使えるインフォテイメントかもしれないが、突き詰めるほどにSUVでなくてはならない理由が薄くなる、そんな弁証法的な存在感も、今どきのドイツ車らしいところかもしれない。
文/藤野太一 写真/河野敦樹、PSAジャパン 構成/iconic