
ビームスのクリエイティブディレクター、中村達也さんが所有する貴重なお宝服の中から、ウンチク満載なアイテムを連載形式で紹介する人気連載「中村アーカイブ」の秋冬バージョンがスタート! 「ベーシックな服もアップデートされていくので、何十年も着続けられる服は意外と少ない」という中村さんだが、自身のファッション史の中で思い出深く、捨てられずに保管してあるアイテムも結構あるのだとか。そんなお宝服の第22弾は……?

【中村アーカイブ】 vol.22 /NORMAN HILTON のジャケット

1990年代前半頃に購入しました。
’90年代に入り英国調の流れが来ると、ドレスクロージングは英国のサビルローのビスポークテーラーやジャーミンストリートのシャツメーカーなどに見られる正統派の英国スタイルを取り入れる傾向が強くなりました。
当時イタリアのクラックはまだまだ認知度は低くマイナーな存在でしたが、少しずつ広がりを見せ始めた時期で、今思えばその後訪れるニューテーラーやイタリアンクラシックという’90年代を代表する2大潮流の産声を感じ始めた時代でした。
一方アメリカのクラシックは、’70年代後半から出てきたブリティッシュ アメリカンの流れが’80年代も続き、’90年代に英国調の流れが来ると、アングロスタイルというキーワードとともに、アメリカ人による英国調のスタイルが再注目されるようになります。
当時バイヤー駆け出しだった私も、バイイングの中心であった英国ブランドと並行してアメリカ製のシャツやネクタイ、パンツなどを積極的にバイイングしていました。
そんな時に、唯一なかった重衣料(ジャケット、スーツ)のブランドとして初めてバイイングしたのが、このNORMAN HILTON(ノーマン ヒルトン)でした。
ノーマン ヒルトンは1888年にジョセフヒルトンによってニュージャージ州リンデンで創業されたハンドテーラードのファクトリーで、当時すでに数軒しかなかった数少ないアメリカのハンドテーラードのファクトリーとして日本に入ってきました。
3ボタン、サイドベンツの英国ブランドのスーツと比べ、2ボタンのセンターベントのこのジャケットは、英国のそれとは明らかに違うアメリカ的なブリティッシュの表現で、しばらく遠ざかっていたアメリカンクラシックの雰囲気がとても新鮮に感じました。
当時このジャケットによく合せていたのが、IKE BEHARのシャンブレーのタブカラー、 パンツはジャケットの雰囲気に合わせBERNARD ZINSの裾幅の広い2インプリーツのパンツ、足元はALDENのタッセルやローファーでした。
ガンクラブチェックのジャケットにシャンブレーのタブカラーは今でもよくするコーディネートですが、最初にしたのがこのノーマンヒルトンのジャケットでした。
その後’90年代後半にノーマン ヒルトンは廃業し、その歴史に幕を閉じましたが、私のバイヤー歴の中で唯一バイイングしたアメリカのドレスクロージングのブランドなので、もう一着持っているネイビーブレザーとともに、これからも大切に残していきたいアーカイブです。
そして、いつかこの当時のアメリカの流れが来たときは、2ボタンのセンターベントのジャケットをまた展開してみたい。
そんな風に思わせるジャケットです。