トレンドを追う時代から、自分の意志を問う時代へ
右から時計回りに、’94年7月号(創刊3号)、’05年9月号、’15年3月号の「Vゾーン」特集の変遷。海外ブランドの流入初期は、その流行やセンスを学ぶことがカッコよさであり、ウェルドレッサーの一大関心事だった。だが世界中のモノが簡単に手に入る今では、取捨選択と活用のスキル、ポリシーこそが課題である。
25年に亘って日本のドレスシーンの変遷を見てきた小誌だが、ディテールの移り変わりこそあれ、スーツはもとよりシャツ、タイといったスーツスタイルの基本構造が劇的に変化したわけではない。しかし25年前と今とでは、着る側のマインドは大きく転じたように思える。かつてタイドアップはエリートの証であり、上等なスーツやタイを身につけることは、社会人としての信頼やステイタスと直結していた。だが老舗企業の斜陽や、服装を問わないITなど新たな企業の台頭とともに、その構図は崩れつつある。
もはや盲目的にネクタイを締めているだけで、周りからの信頼を勝ち取ることはできない。トレンドやブランドより前にまず問われるのは「何のためにタイをしているのか」、その姿勢であり、他ならぬあなたの意志だ。それを示せて初めて、トラッドなタイドアップは信頼へと結びつく。ネクタイは、仕事や社交の場へ向き合う己の姿勢を映し出す、第2の顔というべき存在なのである。
仕事場の軽装化が進む現代では、ストイックなタイドアップスタイル自体が、ある種の”トラッド”とさえみなされつつある。Tシャツ姿で働く人も珍しくない今日、大事なのは「相手にふさわしい、きちんとした装いで臨もう」というあなた自身の意志。ネクタイはいわば、その意志表明のツールと心得たい。
「”紺”の次の正統派を装う」
クラブタイを締めてみる
“きちんとした”印象の構築に、正統派タイのバリエーションは多くあって困ることはない。正統派の代表といえば紺だが、どんな色でも正統を表現できるのがこのクラブタイだ。英国の連隊旗を由来とするレジメンタル、米国で反転されて生まれた右下がりのストライプ。かつてブームを牽引したころとはまた違う、良識あるベーシックとして、活用したいトラッドの雄である。