旧来的な考え方であれば、前者は女性的で、後者は男性向けとされたでしょう。しかし、クルジャンはここでそんな紋切り型の提案はしません。”ウィメンズ”や”メンズ”という枠を超え、さらに一見自由に思えますが、結局、性の枠組みから離れられない”ユニセックス”という固定概念さえも軽々と飛び越えた在り方を提示しました。「個性と感性によって、好きな方を使えばいい」という究極の優しさにあふれる自由な選択肢なのです。

少し飛躍しますが人間の構成要素は主に水分、そこにタンパク質やミネラルなどで成り立ちます。生物的な性別の違い(Sex)を超えて、これは同じ。しかし、社会的な性別の差(Gender)はそんな構成要素にかかわらず厳然と存在します。構成要素は同じでもこんなにも多様な人間がいるのにもかかわらず。最近ではそんな呪縛から脱却しようと様々な取り組みがなされてきているのは皆さんもご承知のことでしょう。それを香水でそんな取り組みをしたのが彼のすごいところ。
社会的な出来事を背景に個人の思いを作品の中に込めることは芸術家のモチベーションのひとつですが、それが直球であればあるほど凝り固まっている人たちには端から「関係ない」とかえって届きにくいこともあります。多層な思いを巧みに織り交ぜることでほんの少しでも接点ができ、その奥をもっと知りたいと興味をかき立てる、そんな手法をボクはこの2つの香りに見いだしました。そしてジェンダー(Gender)から着想してジェントル(Gentle)へと行き着いたのは、さすが時代の空気感を的確に読む魔術師・クルジャン。きっとネーミングをそのままジェンダレス(Gender less)としていたら、こうも深い意味になっていなかったことでしょう。
新時代を感じる優しい香り。ぜひ、自分の鼻で、肌で、そして心で試してみてください。

DATA
左から:
メゾン フランシス クルジャン ジェントル フルイディティ ゴールド オードパルファム
メゾン フランシス クルジャン ジェントル フルイディティ シルバー オードパルファム
各70ml 各2万4600円(2019年2月6日発売)
お問い合わせ
ブルーベルジャパン(株)香水・化粧品事業部
TEL:0120-005-130(10時〜16時)
https://www.latelierdesparfums.jp/

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撮影/田中由起子 取材・文/藤村 岳