演技の「聴く」をプレゼンに置き換えると、「聴衆の1人ひとりの心の声を丁寧に聴く」ということになります。聴き手は、黙っていても色々なシグナルを発信しています。頷いている人は、おそらく今自分が話していることを理解してくれているということです。
自信を持って話を続けましょう。固まっている人がいたら要注意です。その人は理解していないか、聞こえていないかのいずれかの可能性が高いです。その場合は「いまのところ、理解できましたか?もう少し詳しく説明しましょう」「私の声、聞こえていますか?」など、その場の状況に応じて柔軟に対応していきましょう。相手がいまどんな状態で聴いているのか、相手が何を求めているのか、それを掴み取る意識を持つことで、「聴く」ことができるようになってきます。
そして、「語る」。
これは、「聴く」ことができれば自然とできるようになっていきます。相手の気持ちや考えを汲み取ることができれば、あなたの中には自然とそれに対しての言葉が生まれてきます。それを素直に相手に届けること。まずは、それを心がけましょう。
発声や発音、姿勢など技術的な面でのコツはまた別に色々とありますが、紙幅も尽きてきたので、それはまた別の機会に。
本番の数だけ人は成長し
修羅場の数だけ強くなる
さて、冒頭でご紹介した本番中の出来事。その場は切り抜けたものの、その日の公演全体の出来はどうだったでしょう。調子が崩れてしまうかと思いきや、適度な緊張感と集中力が生まれ、結果的には締まりのあるいい舞台になりました。得てしてそういうことがあるのです。私は公演後に共演者に平謝りでしたが……(笑)。
本番の数だけ人は成長し、修羅場の数だけ強くなります。皆さんも、失敗を恐れず、ぜひ色々な場面で積極的に話すようにしてみましょう。そうすれば、「居て、聴いて、語る」ことがきっとできるようになります。
(ビーユアセルフ代表 岩下宏一)
岩下宏一(いわした・こういち)
ビーユアセルフ代表。1970年生まれ。鹿児島県出身。京都大学法学部卒。93年NTT入社、本社人事部配属。その後NTTコミュニケーションズ設立時の人事部立ち上げに参画。仕事の傍らミュージカル専門学校に通い、劇団四季オーディションに合格、エンタテインメントの世界へ。『ライオンキング』他3作品・500ステージに出演。2004年劇団四季退団、人材採用支援最大手・レジェンダ・コーポレーション入社。大小50社へのコンサルティング業務を経て、同社人事部長に就任。2014年独立、ビーユアセルフ設立。長年のビジネス経験とプロのミュージカル俳優として培った「伝える力」をミックスした「インタラクティブ・プレゼンテーション」のセミナーや研修に登壇。人事コンサルタントとしても活動中。