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子供の頃からミシンに親しんでいた

本連載のタイトルは、腕利き職人スーパースター列伝である。タイトルを聞いて「僕、スーパースターじゃないですけど、いいんですか? あっはっは」とベラーゴの牛尾 龍さんは笑う。神戸で10数年、活動を続ける彼の作る鞄や革小物の評判は、東京のファッション関係者の間でも知られている。上品で繊細な作風から、線の細い方が出てくるかと思いきや、現れたのはサッカー選手のような風格のある人物だった。

生まれも育ちも神戸の長田という牛尾さん。子どもの頃はずっと外で遊んでいる元気のよい子だったとのこと。長田は靴作りが地場産業であり、振り返れば、子ども時代の周囲の人たちはみな忙しくしていた様子が印象に残っている。

ベラーゴの店頭
ベラーゴの店頭には繊細な製品が一堂に並んでいる。神戸の旧居留地で5年ほどショップを兼ねた工房で活動し、2013年に現在の場所に移転した。

「母が靴のミシン職人だったので、子どもの頃からミシンは踏んでいました。作業はアッパーをつなぎ合わせる処理などですね。母はミシン工場を経営していて、仕事でいつも外に出ていました。母のミシンの手伝いをすることで、会話の時間を持てるのがうれしかったんですよ」。

実家に置かれているミシン
お母さんもミシンも、ともに現役。現在、実家に置かれているミシンを、特別に見せていただいた。

震災後、アルバイトに明け暮れた

小学校、中学校と成績はよくなかったけれど、自分でなにかをしたいと漠然としたイメージだけはあった。当時、所属していたのは野球部。クラブ活動に面白い部分はあったものの、正直なところ、のめりこむほどではなかった。ついで高校では情報課に進学し、ITについて学ぶことに。

ところが、1995年、高校1年生のときに阪神淡路大地震が発生。なかでも長田は被害甚大で、牛尾さんは小学校に避難した。

「このときに大人たちの絶望した表情を見たんですね。そうなると、小遣いが欲しいなんて言えません。邪魔になってはいけないと、バイトに打ち込んでいました」。

アルバイトは居酒屋、喫茶店、キッチンなど飲食ばかり。高校卒業までに3軒ほど渡り歩くが、なぜか、どこでも結局は調理を任されることになった。居酒屋ではドリンクからお茶漬けまで、喫茶店ではすべてのメニューを作っていたというから、大した腕前だ。しかし、牛尾さんはそうは思っていなかった。

ショップの奥にある牛尾さんの仕事場
ショップの奥が牛尾さんの仕事場。これは小物用の革をカットしている様子。

「なぜ、ホール担当にしてもらえないのかと(笑)。料理を作るのは責任が重いとの考えがあったんですね。なんにでも挑戦する気持ちを持ってはいたけれど、作ることばかりになってしまって。のちのち当時の店長に聞くと、『飲食は売るか、作るかしかない。キミはどう考えても作る方』と言われました」。

18歳で就職し、横浜へ

そんなアルバイトをこなしながら、無事に高校を卒業した牛尾さんは横浜の会社でIT系の職に就いた。仕事はプログラムに異常がないかを管理する業務。入社式が終わって、配属先が決まると、すぐに「長くは続けられない」との思いが芽生えてしまったという。

「もともと(学校の)情報課が、自分には面白くなかったんです。バイトの経験があったから、働くことを軽く考えていた部分もあったと思います」。予感通り、仕事を1年で退職した牛尾さんは神戸へと戻った。このままでは人生がうまくいかないと考えてはいるものの、自分に何が向いているのかもわからない。

ひとまずフリーターとして飲食の仕事をする日々が3年ほど続いた。このままいけば、料理の道に進むのが妥当と思いつつ、釈然としない自分もいる。

左の長財布が約10年前、右の財布は2004年に作ったもの。

左の長財布が約10年前、右の財布は2004年に作ったもの。

約10年前に作った財布を開いたところ。内装は非常に薄くてしなやかな革を使用。いまだ愛着があり、手元に残されている。

約10年前に作った財布を開いたところ。内装は非常に薄くてしなやかな革を使用。いまだ愛着があり、手元に残されている。

「プラティコ」のサイズは縦9×横14cm。シンプルな小ぶりの小物入れだが、ポイントは上下2か所についているジッパーだ。

「プラティコ」のサイズは縦9×横14cm。シンプルな小ぶりの小物入れだが、ポイントは上下2か所についているジッパーだ。

上のジッパーを開くと、中はバイカラー。開口の大きい便利な小銭入れとして使える。

上のジッパーを開くと、中はバイカラー。開口の大きい便利な小銭入れとして使える。

上下を逆にしてもう一つのジッパーを開くと……。なんと小銭の入っている内袋が仕切りになり、カードやお札を振り分けて入れられるのだ。小物入れでありながら、機能的な財布としても使えるアイディアには脱帽するほかない。

上下を逆にしてもう一つのジッパーを開くと……。なんと小銭の入っている内袋が仕切りになり、カードやお札を振り分けて入れられるのだ。小物入れでありながら、機能的な財布としても使えるアイディアには脱帽するほかない。

店内の様子。なかでも注目したいのは、がま口のついた筒状の小銭入れ「パコ」。各1万6200円(税込み)

店内の様子。なかでも注目したいのは、がま口のついた筒状の小銭入れ「パコ」。各1万6200円(税込み)

スモールレザーグッズは充実のラインナップ。左から、名刺入れ3万4560円〜(税込み)、ペンケース各2万1600円〜(税込み)、手帳カバー3万7800円〜(税込み)。※この画像のアイテムはオーダーサンプルです。

スモールレザーグッズは充実のラインナップ。左から、名刺入れ3万4560円〜(税込み)、ペンケース各2万1600円〜(税込み)、手帳カバー3万7800円〜(税込み)。※この画像のアイテムはオーダーサンプルです。

外側に薄マチのポケットを付けた、メンズのクラッチバッグ。パターンオーダー8万4240円(税込み)

外側に薄マチのポケットを付けた、メンズのクラッチバッグ。パターンオーダー8万4240円(税込み)

旅行にも使えるボストンバッグ。フルオーダー30万円〜。

旅行にも使えるボストンバッグ。フルオーダー30万円〜。

ボディバッグも牛尾さんが手がけると、タッセルが付いて、こんなに繊細に。フルオーダー27万円〜。

ボディバッグも牛尾さんが手がけると、タッセルが付いて、こんなに繊細に。フルオーダー27万円〜。

自立し、仕切りや収納も完備した本格的なダレスバッグ。27万円〜。

自立し、仕切りや収納も完備した本格的なダレスバッグ。27万円〜。

コンビ使いが好みと語る牛尾さんらしい、異素材コンビの革小物。13万円〜。

コンビ使いが好みと語る牛尾さんらしい、異素材コンビの革小物。13万円〜。

左端から右へ革に穴をあける千枚通しと菱錐が各2本置かれ、その上はステッチ穴を正確に連続して開ける目打ち。目打ちの下にやっとこがあり、その右に市切り、包丁、ハンマーが並ぶ。

左端から右へ革に穴をあける千枚通しと菱錐が各2本置かれ、その上はステッチ穴を正確に連続して開ける目打ち。目打ちの下にやっとこがあり、その右に市切り、包丁、ハンマーが並ぶ。

こちらは作業風景。革に型紙を重ね、図面通りに線を引いた後、写真のように包丁でカットしていく。

こちらは作業風景。革に型紙を重ね、図面通りに線を引いた後、写真のように包丁でカットしていく。

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