これまで、MEN’S EXでは、高度な腕前を持つ職人の方々を紹介してきた。彼らの持つ特別な技術は、これまでにも多くの場で分析されてきたが、実はテクニック以上に面白いのはそれぞれの人生だ。名人芸を生み出すきっかけは個性的な経歴があってこそ。この連載では、そんな名職人たちのユニークな人生を取材し、超絶技巧が生まれた背景を探ってみたい。
ペコラ銀座 代表/佐藤英明さん【前編】
Profile
佐藤英明(さとう ひであき)さん
1967年、千葉県生まれ、館山育ち。仕立屋の家系の三代目。国内の専門学校に通ったのち、1988年パリの専門学校へ留学。そののちイタリアへ渡り、仕立て職人のマリオ・ペコラさんに師事する。5年の修行ののち帰国し、テーラーとして活動を開始。2000年に自身のオーダーサロン、ペコラ銀座をオープン。
代々続く仕立て屋の三代目
MEN’S EXが創刊して数年後、クラシコイタリアブームが到来した。その黎明期以来、ご意見番としてMEN’S EXが頼りにしているのが佐藤英明さんだ。佐藤さんのご実家は千葉の仕立屋で彼が三代目にあたる。子どもの頃、外でばかり遊んでいたという佐藤さんは小学校から高校までサッカーに夢中。その一方で、中学生のころには家業を継ぐことを意識し始めていた。
「辛くて大変な仕事だと思っていました。両親も職人さんも夜遅くまで働くし。また、当時、すでに世の中が仕立屋の時代ではないとも思っていました。DCブランド(※)が全盛で、誰もが無くなっていく仕事だと言っていた時代です」。