さり気ない着こなしの時代へ
業界人となり、30年以上が経過した森岡さんのファッション観は、いまどのようになっているのだろう?
「人と会うことが多くなって、洋服を楽しんで着ることよりもTPOを気にしなくてはいけないシーンが増えています。また年齢を重ねるとともに以前のようなその日の気分や好き嫌いだけで服を着ることが出来なくなってきました。仕事によっては相手に対する配慮も必要になっていますから……。昔は黒ばかり選んでいましたね。楽だし業界人ぶってました(笑)。でも僕の容姿ではそれだと怖く見えるので、最近は黒よりも柔らかい印象になるネイビーを選んでいます。以前は自分がカッコイイと思うものを着ることが楽しく、それでいいと思っていました。でも、入院したことで様々な意識が変わり、人からどんな印象に見えるのかを気にするようになったのかもしれません。いまの時代はさり気なく、センスを感じさせる普通(シンプル)がいいんじゃないでしょうか。若いころはトラッドを柱にしていたメンズクラブの提案がつまらなく感じられた。しかしいまはそれが消え、普通の中に個性や存在感を引き立たせることのよさや面白さが見えてきたのだと思います。今の時代100点満点を目指していかにも『頑張っています』という人はあまり恰好よく見えません。100点を目指す人に見えるよりも、柄を控えめにしたり、色を一色減らしたりすれば、さり気なさも引き立ち、様々なオケージョンにもマッチします。キメすぎずに、(装いの特徴を)足したり引いたりすることが楽しい。そのほうが着こなしに奥行きが感じられるし、洒落た印象も醸せるはずです。それが自分にもようやくわかってきました。また時代の気分もそうなっていますよね」
最後に森岡さんが分かりやすい具体例を聞かせてくれた。
「隙のない着こなしの出来る人が、スーツにあえてリラックスしたニットタイを合わせる。品格は損なわずに少しだけ遊んでいる。そんな肩の力が抜けた加減がポイントです。ネイビーのスーツが退屈だと思ったら、それは大間違い。フレッシュマンと何十年もネイビースーツを着ている人の佇まいはまったく異なりますよね。スタンダードなスーツでもシルエットやサイズ感を最適に整え、ネクタイを綺麗に締め、スーツスタイルを崩さない靴を選べば、一目置かれる男になれるのです。考え抜いた配慮のある、綺麗な普通スタイル。そのための決め所、抜き所の塩梅がこの頃になって、見えてきました」
さまざまなファッションと時代を経験したからこそ提案できる装い。森岡さんの今後の活躍を応援しながら、我々も紳士の服装の魅力を教わっていきたいと思う。
お宝拝見!
〜森岡さんのワードローブから私物をご紹介〜
※この記事は前編・後編にわけてお送りしました。 >>[前編]はこちら
撮影/久保田彩子 取材・文/川田剛史