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大学生でクラシコイタリアに囲まれる毎日

「クラシックを学ぶ中で、アメリカの伝統的な装いやアイビーの面白さに出会えたわけですね。ルイジ ボレッリのシャツは買えなかったけれど、古着のブルックス ブラザーズのBDシャツは買いあさりました(笑)」

このとき、西口さんは大学三年生。クラシックに目覚めたことで、今度は「ナカガワクロージング」でアルバイトを始めた。ナカガワクロージングはアットリーニやルチアーノ バルベラ、リベラーノリベラーノ、キートンといった最高峰のブランドを取りそろえていた、名店中の名店だ。現在、ファッション界で活躍する大物業界人を輩出もしている。

「もちろん、ビームスでアルバイトをする選択肢もあったわけです。実際に大学三年生の時に、ビームスで買い物はしていましたから。でも、よりクラシックなお店のほうが自分に向いていると思ったのと、ベテランの方のお話を聞くことに強い興味があったので、ナカガワクロージングさんを選んだのです」

結局、西口さんは約一年間、ナカガワクロージングでアルバイトをして、高級なクラシックファッションの知識を吸収。そして、ついに大学4年生のときにビームスで勤務をすることとなる。最初はアルバイトで梅田店のスタッフとして勤務。アルバイト中に大学卒業を迎えたが、当時は新卒での社員採用はなく、中途採用を待つしか機会がなかった。そして9月の採用で晴れてアルバイトから正社員となったのだ。

ついにビームスの社員に

「梅田店の増床があったおかげで、拾っていただきました。ビームス一本しか考えていなかったので、受かってよかったです(笑)。当時、関西地区の品ぞろえではビームスの梅田店が一番充実していました。担当したのがビームスF、インターナショナルギャラリー ビームスで構成するドレスクロージング部門の販売。その頃は、製法や素材の凄さを説明して買ってもらう時代で、ビームスもそうした販売をしていたし、雑誌でも同様の情報を紹介していました」

「お店の仲間からは私の接客は特に長いと言われていたんですよ。今思えば、コーディネイトや着心地よりも、商品の情報がありがたがられていたのでしょうね。着こなしが多様化していなくて、ネイビージャケットにグレーパンツしか合わせ方がないような時代でもありました。高級な商品を提案する仕事でしたが、ナカガワクロージングさんでアットリーニやキートンに触れさせてもらっていたおかげで、全く物おじせずに済みました」

ビームスの仕事場にはクラシックのビームスFと、よりトレンドに特化したインターナショナルギャラリー ビームスの要素が混在。異なる要素は、過去の自分の好みを否定して、クラシックに傾倒していく西口さんに視野を広げるきっかけを与えた。

「最初はデザイナーズを否定する自分がいました。でも、店頭にいろいろなスタッフがいて、なかにはモードとクラシックのミックスコーディネイトの達人もいるんですよね。古いか、新しいかではなく、自分のスタイルを持つことの大切さを、お店で知ることができたのです」

新しい刺激を受けながら、仕事を続けているうちに、気付けば梅田店や神戸店で約10年の時間が流れていた。そんなとき思いがけず、上司から呼び出され、「東京オフィスでの転勤になりそうだが、家族から了解は得られそうか?」と尋ねられた。

地方のスタッフが東京オフィス勤務になるというのは、当時のビームスでは異例のこと。西口さんの驚きはただならぬものだったが、実はこれには伏線があった。



コラム:気になるコーディネイトを徹底解説!



情熱が周囲に西口さんの存在を認めさせた

勉強熱心な西口さんは、以前から販売スキル向上のために、自主的な勉強会を社内で主催していた。「フォーマルについて学ぶ」など、毎回テーマを設け、自分たちが楽しみながら、接客するうえで必要な知識を得るのが目的の集まりだ。が、会を開く中で、さまざまな疑問が湧いてきてしまう。一つのスタイルやディテールに言及する場合、企業やブランド、時代によって、解釈が異なることは珍しくはないからだ。

ビームスとして、どうお客様に伝えるのが正しいのか? 思案した末、西口さんが頼ったのは、ビームスのドレスクロージングの指針を打ち出すクリエイティブディレクター、中村達也さんだ。当時、地方のスタッフが部門トップで面識のない中村さんに直接メールを送るなんて、まずないことだ。しかし、真剣さは伝わったようで、必ず中村さんから返信があり、そのことが西口さんの励みとなった。

次なる伏線は2009年。メールのやり取りが中村さんの印象に残っていたようで、「ピッティウオモ(※)への出張に同行するように」と連絡があったのだ。海外出張の同行はスタッフの研修目的で行われていたもの。当時、ピッティウオモでバイヤーに同行できるのは、全国のスタッフから選ばれる1名のみで、通常は東京勤務の人が選ばれることが多かった。

※イタリア・フィレンツェで、毎年1月と6月に開催されるメンズファッションの見本市
ジャケット9万8000円/ビームスF、ニット3万1000円/ジョン スメドレー、スカーフ1万6000円/ドレイクス(以上ビームスF TEL:03-3470-3946)

ジャケット9万8000円/ビームスF、ニット3万1000円/ジョン スメドレー、スカーフ1万6000円/ドレイクス(以上ビームスF TEL:03-3470-3946)

「次のトレンドとしてモックネックのようにタートルとクルーの中間のようなデザインが注目されています」。西口さんはネッカチーフを首回りからのぞかせることでクラシックなスポーティエレガンスを表現しています。

「次のトレンドとしてモックネックのようにタートルとクルーの中間のようなデザインが注目されています」。西口さんはネッカチーフを首回りからのぞかせることでクラシックなスポーティエレガンスを表現しています。

'90年代のポロ ラルフ ローレンのコットンパンツは古着で購入。「いま、深い股上が新鮮です」。ボリューミーだったパンツは裾幅18cmのテーパードシルエットに修正したほか、ベルトループをすべて外す修理を施し、ベルトレス仕様にカスタマイズされている。

'90年代のポロ ラルフ ローレンのコットンパンツは古着で購入。「いま、深い股上が新鮮です」。ボリューミーだったパンツは裾幅18cmのテーパードシルエットに修正したほか、ベルトループをすべて外す修理を施し、ベルトレス仕様にカスタマイズされている。

この日はブルース モーガンのバングルに、40年代のブローバのミリタリーウォッチ(24時間計)、英国のヴィクトリアンリングなどをコーディネイト。結婚や卒業の記念に購入するなど、ストーリーや、祈り、意味のこもったものをつけるのがお好きだそう。そうしたものが親から子へと受け継がれるといったストーリーに心惹かれると西口さんはいう。

この日はブルース モーガンのバングルに、40年代のブローバのミリタリーウォッチ(24時間計)、英国のヴィクトリアンリングなどをコーディネイト。結婚や卒業の記念に購入するなど、ストーリーや、祈り、意味のこもったものをつけるのがお好きだそう。そうしたものが親から子へと受け継がれるといったストーリーに心惹かれると西口さんはいう。

アレン・エドモンズのタッセルローファーを着用。古着のパンツも裾幅や丈の長さの補正次第で、今の時代に通用するものに変わる。

アレン・エドモンズのタッセルローファーを着用。古着のパンツも裾幅や丈の長さの補正次第で、今の時代に通用するものに変わる。

「スティレ ラティーノ」のコート。およそ10年前に初めてコートをビームスで取り扱った時の一着。素材は英国テーラーアンドロッジのウールカシミアを使用している。普遍的なデザインはいつ着ても古く見えない良さがある。

「スティレ ラティーノ」のコート。およそ10年前に初めてコートをビームスで取り扱った時の一着。素材は英国テーラーアンドロッジのウールカシミアを使用している。普遍的なデザインはいつ着ても古く見えない良さがある。

「スティレ ラティーノ」のジャケット。2Bは3Bが出る前の10年ぐらい前のもの。初めてのスティレラティーノのジャケットは自社のセールで買ったこちら。西口さんにとってはなかなか感慨深い一着だ。

「スティレ ラティーノ」のジャケット。2Bは3Bが出る前の10年ぐらい前のもの。初めてのスティレラティーノのジャケットは自社のセールで買ったこちら。西口さんにとってはなかなか感慨深い一着だ。

「ジョンロブ」のウォレットとコインケース。15年ほど愛用中。「いまでは廃盤となってしまいましたが、その良さは色褪せることがありません」

「ジョンロブ」のウォレットとコインケース。15年ほど愛用中。「いまでは廃盤となってしまいましたが、その良さは色褪せることがありません」

左:「ジョン コンフォート」のタイ。20年以上前のビンテージ物、ハンドプリンドが施した深い奥行きのある一品。 右:「チャールズ ヒル フォー ビームスF」のタイ。現ドレイクスのディレクターであるマイケル・ヒルの父親の名前を冠した廃盤となったブランドだ。

左:「ジョン コンフォート」のタイ。20年以上前のビンテージ物、ハンドプリンドが施した深い奥行きのある一品。 右:「チャールズ ヒル フォー ビームスF」のタイ。現ドレイクスのディレクターであるマイケル・ヒルの父親の名前を冠した廃盤となったブランドだ。

「ポロ ラルフ ローレン」のパンツ。'80年代のアメリカ製。TALONジッパーを使用している点もポイント。シルエットは少し修理されているが、ほぼオリジナルのままにしているという。

「ポロ ラルフ ローレン」のパンツ。'80年代のアメリカ製。TALONジッパーを使用している点もポイント。シルエットは少し修理されているが、ほぼオリジナルのままにしているという。

パンツがベルトレスの仕様ゆえ、「ブリューワー」のサスペンダーを添えて。爽やかな白とブルーのストライプは好感度高し。

パンツがベルトレスの仕様ゆえ、「ブリューワー」のサスペンダーを添えて。爽やかな白とブルーのストライプは好感度高し。

「ジョン ロブ」のチャッカブーツ。今では廃盤となったモデルだか、毛足の長いロイヤルスエードを使用した普遍的なデザインはジョンロブならでは。10年以上愛用している。

「ジョン ロブ」のチャッカブーツ。今では廃盤となったモデルだか、毛足の長いロイヤルスエードを使用した普遍的なデザインはジョンロブならでは。10年以上愛用している。

「ビンテージのカラーピン」‘60年代のアメリカ製。装飾品ではなく襟周りの小道具も欠かさない。

「ビンテージのカラーピン」‘60年代のアメリカ製。装飾品ではなく襟周りの小道具も欠かさない。

「ハロッズ」のドキュメントケース。'90年代英国製。ボックスカーフと真鍮のバックルは英国らしい上品な仕上がりで、今まさにモダンに見える。

「ハロッズ」のドキュメントケース。'90年代英国製。ボックスカーフと真鍮のバックルは英国らしい上品な仕上がりで、今まさにモダンに見える。

「ハロッズ」のドキュメントケース。背面。

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ブランドロゴは内側に。

ブランドロゴは内側に。

3辺がフルオープンになる仕様。

3辺がフルオープンになる仕様。

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