丹念に制作する様子(写真2枚)
フラッグシップサルーンのミュルザンヌについてはクルー工場内の専用の建屋で、それ以外のモデルでは外部のボディ工場にて作られたホワイトボディは、まずはペイントショップで塗装が行なわれた後に、組み立てラインへと運び込まれる。但し、このラインは流れ作業で同じような仕様の車両が次々と組み上げられていくわけではない。何しろベントレーは1台1台すべてがビスポーク。仕向け地も仕様もまったく異なった車両がランダムに、しかも注意深くパーツを組み付けるべくゆっくりとしたペースで流れていく。
それでも前出のオドリスコル氏曰く「ラインは頻繁に止まっています」と言うから驚いた。この日、目標生産台数は35台と掲げられていたが「おそらく達成はできないでしょう」と言う。通常の量産メーカーなら、ラインが止まることはつまり、非効率性を示す、言わば恥ずべきことだ。しかしベントレーにとって、それは効率性より品質こそが最優先だという哲学の表れであり、むしろ誇りなのである。
そうしたベントレーらしい生産のあり方を象徴しているのが、この組み立てラインの前段階にある内装の生産工程だ。何しろ1台分の内装を仕上げるのにかかる時間は、延べ5週間にも及ぶのである。
専用の部屋にストックされている木材(写真3枚)
たとえば幾種類ものウッドが用意された室内を彩るベニアは、木材をまず3週間ほど寝かせてコンディションを整え、その後の加工には2週間をかける。最新鋭の工作機械、計測機器等々も導入されているが、多くの工程は今も職人が目で見て、手を動かすことで行なわれている。