1984年、東京・紀尾井町にあるホテルニューオータニに「トゥールダルジャン 東京」が開業した。当時、日本には本格的なフランス料理のお店は少なかった。ましてや、トゥールダルジャンのようなグランメゾンは希少であった。
今年、開業60周年を迎えるホテルニューオータニと1582年に誕生したトゥールダルジャンとの出会いは運命的なものであった。当時のホテルニューオータニ社長の大谷米一氏とトゥールダルジャンオーナーのクロード・テライユ氏とが偶然、同じ飛行機に乗り合わせ、意気投合。それが東京店の立ち上げの契機となる。
ホテルニューオータニには、加藤清正や井伊家が所有した屋敷をルーツにもつ約1万坪の日本庭園がある。約400年にわたり受け継がれてきた日本庭園はトゥールダルジャンの歴史とほぼ変わらない。トップ同士の感性だけでなく、それぞれの歴史も通じ合うところがある。そんなフランスと日本の歴史と文化の懸け橋として、また、ホテルニューオータニ開業20周年記念事業として、1984年に誕生したのが「トゥールダルジャン 東京」だったのだ。
「1911年に祖父がこのレストランを買い取って以来、現代的なラグジュアリーのみならず誠実さや家庭的な温かさをも併せ持ったエクスペリエンスを私たちは提供しています。私たちはパリのエレガンスを体現する存在であることに誇りを持っています。そして、何よりも私たちは熟練したスタッフとお客さまとの間を感情でつなぎながら、美食の文化とフランス流のおもてなしを継承しているのです」とトゥールダルジャン社長のアンドレ・テライユ氏は語る。
さらに「伝統を受け継ぐということは、実はその流儀を常に生まれ変わらせていくことでもあります。400年の歴史を有する当店は、その蓄積された技術や手法を後世に伝え、フランスが世界に誇る食文化を守護する役割をも担っております」とも語る。フランスの歴史と文化を伝えるという使命は東京店にも受け継がれ、「トゥールダルジャン 東京」は開業から程なくフランス流のウェディングを開始した。シャンパーニュで乾杯し、クロカンブッシュのウェディングケーキを用意するといったスタイルはここから始まったのである。さらに、1000種類以上の銘醸フランスワインを取り揃え、熟成のピークを見極めながら、料理と共にサービスするという点もパリ本店の伝統に則ったものだ。
さて、伝統あるトゥールダルジャンの代表的なメニューといえば「鴨料理」だ。現在のシグネチャーとなっている「幼鴨のロースト マルコポーロ」はパリでも東京でも味わうことができる。鴨一羽一羽に番号がつけられ供されるというスタイルも本店と変わらない。
一方で、「トゥールダルジャン 東京」のエグゼクティブシェフを務めるルノー・オージエシェフはパリ本店のエスプリを踏まえたうえで、独自の感性と技を駆使し、新たな挑戦を続けている。2019年、日本在住のシェフとしては36年ぶりにM.O.F(フランス国家最優秀職人章)を受章したオージエシェフ。2021年にはロシア皇帝が所有した金細工“インペリアルエッグ”にちなんだ「ウフインペリアル」を創作。黒トリュフ、根セロリのコンフィ、真鯛のムースを金箔で包み込んだ味わいも見た目にも美しい一皿が誕生した。
今回、40周年を記念したプレスイベントでは、前菜からメインに進むにつれて時代をさかのぼるというメニュー構成だった。見た目も軽快で華やかにモダンにアレンジされた前菜から始まり、伝統ある鴨料理へとコースが進む。「幼鴨のロッシーニ」は東京店開業当初からあるメニューでクラシカルなフランス料理ではあるが、今回、バターは使わず、軽快さを意識している点に、オージエシェフの料理への向き合い方が表れている。
40周年を記念したプレス向けのイベントで提供されたメニュー(写真5枚)
開業に向けて、パリ本店の先代オーナーであったクロード・テライユ氏は『Art de Vivreを忘れないように』と日本スタッフに伝えたそうだ。
「私たちは、お客様の人生を豊かにするレストランとして、またお客さま一人ひとりの異なる美意識に寄り添うように40年努めて参りました。私たちは常にチャレンジを続け、伝統、そして脈々と受け継いできたDNAを大切にしながら、常に新しい時代の息吹を入れながら進化を重ねています。お客さまの人生を彩る「ハレの日」。トゥールダルジャンは、その幸福な時間を表現するための「舞台」であり、私共はお客さまが愉しんでいただける場を創り出す存在であり続けたい」とトゥールダルジャン日本代表総支配人のクリスチャン・ボラー氏は語る。
11月には40周年を記念したランチとディナーも開催される予定だ。40年にわたり、日本とフランスの食文化の懸け橋を担ってきたグランメゾンの歴史と伝統と進化を、東京で味わってみてはいかがだろうか。
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