アイラ島の大自然が造る、玄人好みの本格派ピート・ウイスキー
アードベッグ蒸留所(アイラ島)
島の純粋な恵みであるピートが生み出す独特なるスモーキーな風味。一度味わったら虜となる、復活した伝説のシングルモルト。
風光明媚なアイラ島の海岸線で造るスモーキーな命の水
ラムズデン博士が監督するもう一つの蒸留所は、ピートの香りで世界を魅了するアイラ島産シングルモルトの代表格アードベッグ。’80年代に一度閉鎖に追い込まれたが、1997年にグレンモーレンジィ社が出資して、伝説の蒸留所が復活した。
アイラ島はスコットランド最大の都市グラスゴーから真西へ120キロに位置するヘブリディーズ諸島南端の島。そこには近代社会とは遮断された大自然が広がっていた。
プロペラ機で45分飛行して到着。するとこの後数人からも伝え聞くことになった途方もない“噂話”を今回の取材ガイドを務めてくれたアーサーさんから耳にした。彼はアイラ島生まれのアイラ島育ち。40年間の蒸留所勤務を経て、現在は個人タクシーを営むナイスガイだ。
そのアーサーさんがこう言った。「先月、とある中国のレディが、アードベッグの50年モノの樽を2500万ポンドで落札したそうだ」と。これは円安が進む最近の為替レートならざっと47億円。一樽からは約500本のボトルが取れるというが、それでも1本当たりの価格が940万円となる。
約20年間閉鎖に追い込まれたことが逆に功を奏し、’70年代に仕込んだ樽が残っていたという。ウイスキーの価格としてはまさに天文学的数字。いみじくもその時、グレンモーレンジィで案内人のトムさんが「32年モノには値段はつけられない」と言ったことを思い出した。
「アイラ島に降る今日の雨は明日のウイスキー」。蒸留所に着くと、いきなりそんな名言を口にしたのはアードベッグの製造責任者であるコリン・ゴードンさん。この言葉にはスモーキーな風味を醸し出す秘訣であり、アイラ島ウイスキーの代名詞とも言える“ピート”に深く関係する。
ちなみにピートとは泥炭のこと。湿地に枯れた植物が堆積してできる燃料だ。これがアイラ島のいたる所に蓄積しているのだ。掘り出したばかりのものは湿っているが、乾燥させるとよく燃える。これでウイスキーの原料となる麦芽(モルト)を燻すのである。
「石炭では匂いがつき過ぎます。もちろんガスでは香りがつきません。ピートだけがアイラ島シングルモルトのスモーキーな独特の風味を絶妙につけることができるのです」
そしてコリンさんが手に取って見せてくれたのが5センチほどの厚みがある棒状のピート。「ピートは1ミリ堆積するのに1年かかると言われています」。場所によっては500年以上の年月が費やされて作られたピートもある。
さらにアイラ島のシングルモルトの味を決定づける水は、幾層にも積み重なった泥炭を通り抜けた雨水が溜まった地下水。数万年という年月がかかっているピートの大地を染み通り、活性されてや黒ずんで見える大自然の水が、アードベッグのウイスキーに魔法ともいうべき磁力を与えていることも間違いない。
蒸留所所長
COLIN GORDON(コリン・ゴードン)さん
聖地として名高いアイラ島でのウイスキー造りを天職とする陽気な職人。大自然に囲まれたピートの島で極上の“命の水”を生み出すことに至福を感じる生粋のスコットランド男。