快適性と高性能の融合マセラティの今と未来が詰まったスーパースポーツモデル
新しく舵をきったマセラティブランド
あと2年で創業110年を迎えるイタリアの老舗ブランドが今、大胆に変わろうとしている。今から2年前のこと。「その音が変わるとき」と銘打った新たな経営戦略が発表された。電気自動車(BEV)の工場を新たに建設し、全ラインナップの電動化を目指す。マセラティはハイエンドブランド界において一躍、最も急進的な電動ブランドになる。少なくとも世間的にはそう見えた。
何しろ新型グラントゥーリズモおよびグランカブリオは最初からフル電動モデルになるというし、新たなフラッグシップとして開発するスーパーカー(のちのMC20)はエンジンとモーター&バッテリーの二刀流で、そのほかのモデルもハイブリッド化した後にBEVとなる……。
けれども筆者がもっと驚かされたのは新型スーパーカー用のV6エンジンを新たに開発したという知らせだった。電動化を大々的に宣言した少量生産メーカーが同時に全く新しい内燃機の開発も行っているなんて普通では考えられない。
ネットゥーノ(Nettuno)と名付けられた3ℓV6ツインターボエンジンがそれだ。F1テクノロジーでもあるプレチャンバー燃焼方式を市販モデルに初めて取り入れたエンジンという触れ込みだった。
なぜに新開発? マセラティの属するステランティスには他にも同じようなV6エンジンがあるというのに。
長らくマセラティはフェラーリからエンジン供給を受けてきた。それを「ウリ」にした時代もあった。けれども、それで決してマセラティブランドの魅力の増大に繋がらないと彼らは気づいたのだろう。契約が2020年中に終わることを見越して、なんと自社開発で、しかも生産工場を新たに立ち上げての自社生産を決断したのだった。
エンジンだけじゃない。車体の組み立てから塗装まで全てを本社工場のあるモデナで行う。少なくともフラッグシップモデルであるMC20は100%モデナ製であることをアピールできるようプランした。それがカスタマーファーストを実現するハイエンドブランドのあるべき姿だと彼らは確信したのだ。
新時代を象徴するMC20の大胆な戦略
つまり、MC20こそはこれからのマセラティの決意を最もよく体現するモデルなのだ。つい先日、その名もチェロ(=空)と名付けられたスパイダーモデルが追加されたばかりだが、実はこのMC20、当初から電動化、もっというとBEVとして成立するよう設計されたスーパースポーツだった。エンジン車と重いバッテリーを積むBEVを成立させるためにも、コンパクトな専用エンジンとカーボンシャーシの開発が必要だったというわけだ。
ブランドのイメージをMC20ストラダーレ&チェロによってさらなる高みに上げたうえで、次世代においてもヒーローになるべく、BEVのMC20フォルゴーレをデビューさせるという大胆な戦略。つまり、MC20シリーズは老舗ブランドの長い歴史と輝かしい未来をつなぐ重要な役目を担っているというわけだった。
日本に上陸した主要なモデルには必ず往復千キロのテストドライブをまずは課す。それが筆者のスタンスで、MC20ストラダーレもまた車両の用意が整った4月に京都までの長距離ドライブを試みた。
恐ろしく複雑でV8エンジン並の高出力を達成した新開発エンジンと、世界一のレーシングカーコンストラクターであるダラーラが協力して開発されたカーボンモノコックボディ、クラウス・ブッセ率いるマセラティチェントロ スティーレによる美しくも虚飾を廃したシンプルなスポーツカースタイルを持つ全く新しいスーパーカーである。テスト前のイメージは“スパルタンなリアルスポーツカー”というものだったが、予想はあっさり裏切られた。
もちろん、世界第一級レベルのスポーツカーであることはその後のサーキット試乗で思い知ることになるのだが、一般道においては前述したような高性能ミドシップスポーツカーとは思えないほどに扱いやすく、上質なグランドツーリングカーに徹したものだから驚くほかなかった。
速さだけでなく快適GTモデルとしても秀逸
フロントアクスルはミドシップカーと思えないほど落ち着いた動きを見せるし、強大なパワーを受け止めるリアアクスルは大いに粘る。さらにカーボンボディからは一体感が得られて乗り心地も滑らか。抜群の高速安定性を生み出していた。
とにかくクルージング状態でのMC20は拍子抜けするほどジェントルだ。ドライブモードをGT(ノーマル)にセットしておけば、630PSを誇る海神(ネットゥーノ)はまるでドライバーの背後でうたた寝しているかのよう。時々の軽い加速も寝息で賄っている。ハイギア固定のクルージングがなんとも心地よかった。
とはいえ、ひとたび海神を目覚めさせれば、その脚力たるや凄まじいものがある。ハイギアのままでもスルスルと加速し、踏み込めば凄まじいサウンドとともにロケット加速を見せる。車体の軽さを感じさせつつ、空力に優れるため加速やレーンチェンジにおける安定度も素晴らしい。こんなに気兼ねなく長距離ドライブを楽しむことができるなんて。さすがはマセラティ、GT=グラントゥーリズモの老舗である。
マセラティはMC20の登場を境に変貌を遂げている。最新のSUV、グレカーレなどは同クラスのドイツ勢を蹴散らす完成度の高さを誇っている。ちょっと目の離せないブランドになっていきそうだ。
今月の1台 MASERATI MC20(マセラティ MC20)(画像5枚)
お問い合わせ先
マセラティカスタマーコールセンター TEL 0120-965-120
[MEN’S EX Summer 2022の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
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