ビスポークと同じ工房で仕立てたパンツが4万円台!?
世界で最も勢いのあるサルトリアとして今、黄金期を迎えているダルクオーレ。スーツ好きならその名は誰もが知るところだが、同店には意外と知られていない特色がある。それは、自社内でパンツも製作する極めて稀なサルトリアであるということだ。ナポリにはパンタロナイオと呼ばれるパンツ専門の独立職人が数多く存在し、多くのサルトリアは彼らと組んでスーツを仕立てる。つまり協業による製作が一般的だが、ダルクオーレは自社のアトリエにパンタロナイオを擁し、パンツまで一貫製作を行っている。しかもその人物とは、創業者である故ルイジ・ダルクオーレの実弟、パスクァーレ・ダルクオーレなのだ。
“ダルクオーレはジャケットも素晴らしいけれど、パンツも完璧”という声がバイヤー陣から多く聞かれるのは、兄弟だからこそできる緊密な連携ゆえなのである。


そんなダルクオーレが昨年始動させた新プロジェクトが「ダルクオーレ トラウザーズ」。マシンメイドで仕立てる既製パンツブランドである。しかし、既製服工場に外注したありがちなディフュージョンとは全くの別物。その背景について、輸入代理を務める「フィロロッソ」の鍜治さんが次のように解説してくれた。
「このプロジェクトはコロナ前から進んでいました。パンツも自社で仕立てるダルクオーレならではの強みを活かして、既製パンツブランドを立ち上げたい。それも、一部の人にしか手が出ないハンドメイドではなく、より多くの人のためのマシンメイドのパンツを。とはいえ、外部工場に生産を投げては本末転倒。そこでミシンなどの設備投資を行い、マシンでの仕立てに長けた職人も雇用して自社アトリエ内での製作体制を整えたのです。マシンメイドとはいえダルクオーレの本質的価値は堅持しているところが大きな特徴です」
ビスポークと同じ工房で仕立てられるパンツが4万円台〜。この革新的プロジェクトには、パンタロナイオであるパスクァーレと並ぶ立役者がいる。故ルイジの娘クリスティーナと、その婿ダミアーノだ。超やり手のビジネスマンであり、各国バイヤーとのコミュニケーションを一手に引き受けている。ダミアーノにメール取材を試みると、次のコメントを送ってくれた。

「身体にフィットし、スタイルを美しく見せる。ビスポークの本質であるこの特徴を既製パンツで表現するために、あらゆる工夫を凝らしました。その実現において、ビスポークと同じ工房で作るということが大きなアドバンテージになっていると考えています。定番として愛用できると同時に、穿くたびに自信がみなぎるエモーションも宿した逸品であると自負しています」
パスクァーレという超一流職人と姪夫婦の企画センスが融合した稀有なるクオリティ。これは、いわば“奇跡のパンツ”だ!
Teacher

フィロロッソ 営業
鍜治弘之さんさん
ダルクオーレの輸入代理店フィロロッソに勤務。ミラノ在住歴もありイタリア人の信頼も厚い。
[MEN’S EX Spring 2022の記事を再構成]