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「あらゆる細部を吟味して“佇まい”のある服を作りたい」
―― 小山雅人

かつてジャパニーズ・プロダクトの価値は品質の高さにあるとされてきたが、現在はむしろ“表現力”が日本の真骨頂といわれる。伝統への探究心、細部まで妥協しない精緻さ、“侘び寂び”や“もののあはれ”にも通じる繊細な感性といった日本人ならではの美意識こそが、ジャパンブランドを特別たらしめているのだ。その意味において、ユーゲンは日本の真骨頂が表れたブランドといえるだろう。

小山氏が自らのブランドを立ち上げようと決意したとき、思い至ったのが「幽玄」という言葉だったという。

「洋服は“佇まい”が重要だと思っていて、ハンガーに掛かっているとき、人が着たとき、歩いたとき、それぞれの場面で言葉には表せないような優美さを感じさせる服を作りたいと考えています。こういう感覚って、日本人特有のものじゃないかと思うのです。幽玄とはものごとの趣が奥深く、味わいが尽きないという意味ですが、この言葉こそ私の服作りに対する理想だと感じました。佇まいを生み出すためには細かい部分への意識が不可欠で、ちょっとした色みや意匠の微差、パッドの厚さ、袖付けの角度といったところまでひとつひとつ吟味しています。私の服作りはヨーロッパがベースになっていますが、そこに日本人ならではの視点や意識を掛け合わせることで、新しい価値を生み出せると考えたのです」

幽玄という日本古来の美意識に加えて、もうひとつユーゲンの本質を表すキーワードがある。それが“モダニズム”だ。

「’20 年代に勃興したモダニズムは建築や芸術において今なお色褪せないスタイルを築き上げました。しかし洋服に関してはいまだ“モダニズム”という様式はありません。時代を超えた普遍性をもち、数十年後にヴィンテージとして残るようなプロダクトを作りたい。そのために素材・パターン(型紙)・縫製の三位一体を突き詰めて、バランスをとっていくことが大切だと考えています」

ではここから、ユーゲンの注目作を個別に見ていこう。

シンプルの裏に機微を秘めた日本人にしか表現できないエレガンス_ユーゲン_コート

まずは、デビューシーズンから続く定番「ダニエル」(❶)。’40 年代の英国ミリタリーコートをモチーフにしているが、肩の傾斜を強めにし、袖の角度をやや下に向けて設計することで美しい丸みを描くようデザインしているのが特徴だ。フォックス ブラザーズのクラシックなメランジ素材を採用しているが、ボタンや裏地の配色によってカントリーくささを払拭している点にも注目したい。

シンプルの裏に機微を秘めた日本人にしか表現できないエレガンス_ユーゲン_ジャケット

❷はジャケット「スティーブ」とパンツ「ミック」によるセットアップ。表がギャバジン、裏がサテン地になった珍しい生地を採用し、しっとりした独特の手触りを備えている。ジャケットはフレンチワークに範をとりつつ、精緻な縫製でドレス感もミックス。パンツは’60 s的なスリムシルエットで、ベルトループを上下ともウエストバンドの内側に挟み込むなど細部まで作り込みが光る。

シンプルの裏に機微を秘めた日本人にしか表現できないエレガンス_ユーゲン_ニット

❸の「マーティン」はカシミア紡毛糸によるニットで、最初は硬さがあるものの着込むほど柔らかく育っていくという、往年の英国カシミアニットを思わせる一着。首・袖・裾のリブ部分のみあえてウールを混紡して型崩れを防ぐという心配りも日本人的だ。

シンプルの裏に機微を秘めた日本人にしか表現できないエレガンス_ユーゲン_シャツ

❹の上「アラン」はワンピースカラーを採用しつつ、襟の折り返し部分で芯地をカットして台襟代わりにしたユニークな仕立て。これにより襟が自然に広がり、端正さと寛ぎ感を両立できるのだという。下「ロブ」はバンドカラーだが、別売りの付け襟を装着することも可能。シャツの原型を想起させる仕様だ。背ヨークが小さいのも特徴だが、これは肩を動かしやすくする工夫。格子柄のスカーフはル・コルビュジエの建築から着想したデザインで、今季の象徴的モチーフとなっている。

ミニマリズムの奥に秘められた機微の味わい。“幽玄の美”は、知るほどに魅力を増してくる。



[MEN’S EX 2021年10月号DIGITAL Editionの記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)
※表示価格は税込み。

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