ロサンジェルスのダウンタウンにザ・ブロードという、現代美術館ができたというので、40年来の友人である日系三世のエリック井上氏に誘われて出かけてみた。
世界的に有名となった日本人アーティストの草間彌生の特別展示があるというので、楽しみに出かけたが、アメリカでも相当な人気なのと、夏休み真っ盛りというわけで、その展示には予約が必要だったために断念したが、常設の展示がとても素晴らしく、素敵な現代美術に触れることができて幸せな気分となった。
アメリカには多いのだがこの美術館も入場料はなく、誰でも時間さえあれば美術を鑑賞できるという、文化の大盤振る舞いが素晴らしい。コレクターが生涯をかけて私財を投じ集めた、世界の宝物を惜しげもなく次の世代にも伝えていこうという、その心意気が素敵だ。
そのコレクターというのがエリとエディスノブロード夫妻。彼らは不動産業で成功私財を成し、過去60年間にわたって現代美術に目を向け、ポスト・ワー世代、つまり戦後を代表するアーティストの作品を集めた。その数2000点に及び、まだ毎週そのコレクションが増えているというから素晴らしい。
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ザ・ブロードのウェブサイトでも収蔵作品の多くが公開されている。
The Broad公式サイト
エスカレーターで3階の大きな展示室に向かうと、まず目を引いたのが巨大な風船をモチーフにしたオブジェだ。
子供たちが縁日で風船おじさんに作ってもらう、細長い風船をくるりと巻いたり、つないだりして作る、風船細工を巨大化した、ジェフ・クーンズ作のチューリップの花束や、バルーン・ドッグ。これはステンレスで造形しそれに特殊な塗装をしたものだが、なんともその大きさに圧倒されるし、子供たちとっては身近なモチーフなので、驚きもひとしおだろう。
このほか現代美術史を代表するアンディ・ウォーホルや、リキテンスタイン、ジャスパー・ジョーンズなどの名作が堪能できるし、日本の村上隆の初期の大作、また先ほど紹介したジェフ・クーンズのマイケル・ジャクソンとチンパンジー”バブルス”の彫刻、さらには夭折の画家ジャン・ミシェル・バスキアの作品群など、見所が満載だ。
ロバート・テリアンのアンダー・ザ・テーブルという作品は、巨大なテーブルとイスの下を、人間がくぐって歩けるという、ガリバーの国に迷い込んだ気分となるもので、多くの家族連れやカップルが記念撮影をしていた。
ロサンジェルスに旅する予定があるなら、この美術館に足を延ばす時間をぜひ作ることをお勧めしたい。
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。