“グレースーツ”の洒脱さを忘れてはいけない
控えめ過ぎると毛嫌いする人もいるかもしれないが、歴代のウェルドレッサーたちがグレースーツを特別な存在として愛したのには、明確な理由がある。それは最も控えめであるがゆえに、着る者の個性が最も色濃く滲むからに他ならない。
「グレースーツは男を磨くのにこれ以上ない服。昔の映画は、装い方のお手本です」と語るのは、日本を代表するウェルドレッサーの1人、フェアファクスコレクティブの慶伊道彦社長。
「たとえば『北北西に進路を取れ』の劇中では、主演のケーリー・グラントだけでなく脇役も皆がグレースーツ姿。まるでジャンパーを羽織るかのように、無造作に着ているのが格好いい。『めまい』のジェームズ・スチュアートも素敵です。控えめだからこそちょっとした仕草や遊びが目を引き、男の魅力が滲むことを映画は教えてくれます」。
さりげなくポケットへ手を突っ込む所作や、そこへ生まれる生地のシワまでもが粋に映る— 本記事のスタイルは、まさしくそれを証明するものといえよう。
また、黒の内羽根靴を履くところを茶のダブルモンクにしてみたり、チーフやタイに大柄を入れてみたり。そんな一匙のアレンジが洒脱に映えるのも、ニュートラルなグレースーツゆえ。粋な紳士たらんとする男の願いを、グレースーツは裏切らない。
BELVEST
ベルヴェストのグレー3Bスーツ
ワイドラペルの新鮮味を控えめグレーが際立たせる
ヴィンテージの意匠をモダンなシェイプに落とし込んだ「カプセルコレクション」より、スーパー120’sのピンヘッド生地を用いたスーツ。極太ラペルが洒脱に映えるのも、色柄が控えめだからこそだ。
GIEVES&HAWKES
ギーブス&ホークスのグレー2Bスーツ&ベスト
堂々たる威厳に満ちたブリティッシュスタイル
チャコールグレーの重厚感、そしてサヴィル・ロウ譲りの構築的な肩周りに、堂々たる威厳が表れた一着。他方、生地はしなやかで繊細なタッチだ。茶のボールドストライプが洒脱の肝に。
[MEN’S EX2018年05月号の記事を再構成]
撮影/片桐史郎(TROLLEY)、若林武志、岡田ナツ子、長尾真志、村上 健、杉山節夫、大泉省吾、田中新一郎八田政玄、武蔵俊介、久保田彩子 スタイリング/武内雅英(CODE)、宮崎 司(CODE)、佐々木 誠 ヘアメイク/松本 順(辻事務所)、勝間亮平(MASCULIN) 構成・文/伊澤一臣、宮嶋将良(POW-DER) 取材・文/安藤菜穂子、酒向充英 文/長崎義紹(paragraph)、中河由起恵(paragraph)、吉田 巌(十万馬力)、秦 大輔、安岡将文、池田保行(04)、礒村真介 撮影協力/七彩、新宿パークタワー、パークハイアット東京、リュド・ヴィンテージ目白