ジュネーブ取材 DAY 2
レマン湖に面する5つ星ホテル「ボーリバージュ」へ
取材の2日目はSIHHの会場ではなく、ジュネーブ市内のホテルや、自社を会場にする独立系のメゾンの取材をする日となった。
その朝一番のアポイントメントは、レマン湖に面する5つ星ホテル「ボーリバージュ」を会場とするボヴェ社だ。我々のホテルから徒歩で10分くらいなので、みんなで歩いて向かう。
ボヴェというメゾンは、かつて清朝の中国に、ミニアチュール・エナメル画や、淡水パールで装飾した時計を輸出した歴史があり、現代においてもまた、美しいミニアチュール・エナメル画による文字盤を持つ時計を作り続けている。
そしてそのような工芸的技法を駆使した複雑時計にも力を入れていて、今年もまた新しい表情を持つ「エドアール・ボヴェ・トゥールビヨン」を完成させたのだ。
この時計の表側には文字盤の6時側に、ミステリアスに浮かんでいるように見える、自社製のフライング・トゥールビヨン機構があり、それが秒表示を兼ねている。そして文字盤左右に、半球形の立体的な地球を象ったディスプレイがあり、それぞれが任意の都市の時間帯を表示し、時計中央の長短針とともに、トリプルタイムゾーンという機能を持っているのだ。
この半球形の地球ディスプレイは軽さにこだわり、工作が難しいチタンを素材としている。そして海の部分は、暗いところで光るように、紺色のスーパールミノバを手で塗っているそうで、そのため陸の部分より一段低くエングレーブされているという、手の込んだ造りである。
長短針の上の丸窓には、太陽と月が描かれているが、これは24時間かけて反時計回りに回転し、昼夜の区別を教えてくれる、デイ&ナイト機構である。
取材後、ボヴェのオーナーのパスカル・ラフィー氏が、「ぜひ特別に見せたいものがあるので時間を作ってくれないか」というので、その週末にもう一度訪ねると、まだ試作中のさらに複雑な天文時計を見せてくれた。ラフィー氏自身が情熱的な時計コレクターでもあり、彼の美しく機能的な時計を作りたいという夢が、これら最近のボヴェ時計を、比類のないものとしているのだった。
Profile
松山 猛 Takeshi Matsuyama
1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。SIHHは初回から欠かさず取材を重ね、今年で28回目。
撮影/岸田克法 文/松山 猛