大人の言い訳は、相手への誠意でありやさしさであり愛です。何かとややこしくてままならない大人の日々ですが、適切な言い訳を繰り出して、自分を守りつつ周囲のストレスをできるだけ少なくしてしまいましょう。
若い頃の夢を実現できていない
今の自分と過去の自分、どちらも力強く肯定し、実際以上に輝かせよう
年の瀬や年の初めは、いろいろと物思う時期です。今の自分は、昔イメージしたとおりの大人になれているのだろうか。学生時代に抱いた夢を実現できているのだろうか……。
ほとんどの場合、そうはなっていないでしょう。だからといって、若い頃の自分に顔向けできないかというと、それもちょっと違う気がします。誰だって、それなりに一生懸命に毎日を生きているはずです。
このように甘酸っぱくも切ない今回のテーマですが、ここでも言い訳の出番です。言い訳の力で、今の自分も過去の自分も肯定し、実際以上に輝かせてしまいましょう。
当時の夢が実現していないのは、結局は現実の壁に阻まれたり、自分に能力や度胸がなかったりしたせいかもしれません。そこを真摯に反省しても、気持ちが沈むだけ。
「俺は、あの頃の青臭い夢に縛られないで、新しい夢に向かって頑張っているんだ。それは自分が成長した証なのではないだろうか」 そう思ったところで何の差し支えもありません。「新しい夢」がとくになくても大丈夫です。返す刀で「若い頃の夢をしみじみ思い出す自分」の感性の豊かさを称賛するのもお忘れなく。
続いては、若い頃の自分を輝かせる番です。俳優やミュージシャンになりたいとか、起業して大金持ちになりたいといった無茶な夢でも、違う業種が希望だったとか資格を取りたかったといった類の夢でも、やることは同じ。「あの頃は自分のことがよくわかっていなかったなあ。でも、わかっていないからこそ、あんなキラキラした夢を抱けたんだなあ」
そんな調子で、純粋な夢を抱いて目を輝かせている若き日の自分の姿をイメージしましょう。実際はボーっとした学生だったとしても、うぬぼれ屋の口だけ野郎だったとしても、過去なんて美化してしまったもん勝ちです。
言い訳の中で誰もがもっとも得意とするのは、自分への言い訳にほかなりません。若い頃の夢なんてとっくに諦めていることについては、すでに言い訳を用意しているでしょう。加えて、せっかくの過去の夢に新たな役割を与えてこそ、本当の意味で言い訳を活用したことになります。
言い訳の極意
現実は変えられない分、 イメージの中の自分を都合よく 変えてしまおう— 言い訳は 時に人生を美しく彩ってくれる。
講師
石原 壮一郎さん
1963年三重県生まれ。大人の美しさと可能性を追求するコラムニスト。1993年に『大人養成講座』でデビュー以来、日本の大人シーンを牽引している。近著に『本当に必要とされる最強マナー』『9割の会社はバカ』など。
[MEN’S EX 2019年1月号の記事を再構成](スタッフクレジットは本誌に記載)