ビステッカ三昧の日々【松山 猛の道楽道 #005】

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松山 猛の道楽道(どうらくどう)

70歳を過ぎても僕は未だに肉好きである。僕が生まれ育った戦後昭和の京都は、幸運にも戦災に遭わなかったから市民生活が普通に戻るのも早かったらしく、すき焼きなどの牛肉の料理も幼いころから食べていた記憶がある。
しかもその頃は秋の味覚の松茸も比較的手に入れやすく、松茸をぽんぽんとすき焼きに入れていたから贅沢なものだった。

さてフィレンツェの名物料理と言えば、トスカーナ州南部キアーナ渓谷の特産品である、キアーニーナ牛のTボーン・ステーキ”ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ”に尽きる。
フィレンツェ到着の夜も、友達に予約してもらった「ファッジョーリ」というレストランに行き、早速ビステッカをいただいたのであった。

一緒にテーブルを囲んだのは名古屋の平野時計店の平野兄弟とその息子さんたち。
それぞれの息子さんが大人の入口の年齢に差し掛かったので、自分たちの扱う時計や、ファッションの世界をじっくり味あわせようと、親子でスイス、イタリアの旅をすると聞き、それではフィレンツェで合流しようと計画していたのだった。

鶏のレバー・ペーストをぬったクロスティーニや生ハムとサラミの盛り合わせ、フィレンツェ風トリッパの煮込みなどの前菜。そしてリコッタチーズとペコリノチーズが入った自家製トルテーリやミートソースのペンネに次いで、お待ちかねの3kg越えビステッカの登場。

初めてのビステッカ・アッラ・フィオレンティーナに、平野ジュニアたちは絶句したが、それでもモリモリと食べるのは若者の証拠である。そこでおじさんたちも負けるものかとがんばるのだった。

キアニーナ種の牛は2000年前のローマ時代から農耕のために飼われていたという、とても古い種の牛であるらしい。
その肉質は典型的な赤身で、噛めば噛むほどジューシーな、その食感が持ち味だ。
最近は熟成肉の流行のせいか多くのレストランが熟成ぶりを競う。

フォトギャラリー(写真3枚)

そしてまた旅の締め括りにビステッカをと、友達たちと出かけたレストランは、T.タッソ広場に面した「アル・トランバイ」という店だ。
陽気な店主のグラジアーノさんが、「あなたたちのために特別に仕入れたよ」というキアニーナの肉は、本当に美味だった。

この店ではポレンタをフライにしたものや、アーティチョークの天ぷら、そして玉ねぎのスープなど、ほかの店ではあまり食べたことのないメニューにも出会えた。
そして何より心を温かい気分にしてくれる、サービス精神の塊のような店主のサービスや、友人達と感謝を分かち合う楽しい食事に、ワインのせいだけではなく、魂の芯までほろ酔えたのでありました。

Al Tranvai
Piazza T.Tasso,14r Firenze
Tel&Fax +81 055 255 197



松山 猛 Takeshi Matsuyama

1946年京都生まれ。作家、作詞家、編集者。MEN’S EX本誌創刊以前の1980年代からスイス機械式時計のもの作りに注目し、取材、評論を続ける。

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