【中井貴一の好貴心】vol.5《"笑いとマナー"のゴルフ論》

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中井貴一さん

ゴルフ好きだった父からの縁やDNAを感じながら

小津安二郎監督の映画『秋刀魚の味』の中に、父、佐田啓二が演じる平山幸一が「このゴルフクラブいいんだよな、欲しいんだよな」と、クラブを手にしながら呟くシーンがある。岡田茉莉子さん演じる妻の秋子は「私は洗濯機が欲しいわ」とにべもない。趣味に生きたい男と、家庭を充実させたい女との対比が描かれたひとコマだが、これは小津監督が父のゴルフ好きを知ってのことだったらしい。

私をこの世界に導いてくれたのも、父のゴルフ仲間だった松林宗恵監督だった。松林監督は、父の十七回忌法要の席で、テニス三昧で真っ黒に日焼けした私に目を留めてくださり、デビュー作となる『連合艦隊』へのオファーをいただいたのだった。その松林監督が、私にこんな話を聞かせてくれたことがある。

昭和30年代。今ほどゴルフがポピュラーでなかった頃、世間にさきがけ映画界ではゴルフをする人が増え始め、その先頭に立っていたのが父であったらしい。父は、松林監督に「ゴルフというスポーツは、技術以上にマナーが大切なんです。どんなにゴルフが上手くてもマナーの悪い人は、次回誘いたくない。でも、技術はなくても、一生懸命でマナーのいい人は誘いたくなる。それが、ゴルフなんですよね」と。勿論、この父の論法に反対の方もいらっしゃるだろうが……。

この話を聞いた時、父との思い出や記憶はなくとも、DNAは確実に受け継がれているのを再認識した。親を見て育たなくとも、性格は似てくるのだな?と、父との距離がとても近くなったような気がしたものだ。

大分、父より年齢的には老けたが、ここからが、ゴルフと向かい合う時だと思っている。毎年、年初めに「今年こそはまじめにゴルフを」と、心に誓うのだが、幸か不幸か中々実現しない。でも、50代の内にシングルプレイヤーになるという夢を、こっそりと胸に秘めている私なのである。年間のゴルフ回数がシングルであることから抜け出して、リアルなシングルプレイヤーを目指して、唯一の趣味といえるゴルフに敬意と感謝を込め、ラウンドを楽しみたい。

[MEN’S EX 2013年8月号の記事を再構成] 題字・文/中井貴一 撮影/熊澤 透 ヘアメイク/藤井俊二 構成/松阿彌 靖 撮影協力/蓼科高原カントリークラブF

今でも大切に持っている、亡き父・佐田啓二さんの愛用クラブ。ドライバーはマグレガー、パターはボブ・トスキ、スポルディング、マグレガー。

今でも大切に持っている、亡き父・佐田啓二さんの愛用クラブ。ドライバーはマグレガー、パターはボブ・トスキ、スポルディング、マグレガー。

京都から駆けつけていただいたのは、中井さんの友人でゴルフ仲間のお2人。左は現代風質店「よろず屋」社長の加藤 学さん、右は老舗漬物店「打田漬物」社長の打田学市さん、終日、“笑いっぱなし”のラウンドだった。

京都から駆けつけていただいたのは、中井さんの友人でゴルフ仲間のお2人。左は現代風質店「よろず屋」社長の加藤 学さん、右は老舗漬物店「打田漬物」社長の打田学市さん、終日、“笑いっぱなし”のラウンドだった。

2025

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