成熟した男性を目指すならそれ相応の装い術や嗜みの作法を身につけておきたいものだ。古今の映画に精通する綿谷画伯が印象に残った、映画のワンシーンから切り取りそれらを解説する。
今月のお題 ご法度なハットマナー
絵と文・綿谷 寛
またまた告知を。来たる9月12日(水)〜 9月18日(火)まで、新宿伊勢丹メンズ館8階にてイラスト原画展を開催します。また15日(土)は兄弟誌『Begin』の連載『ナウのれん』でおなじみのコラムニストいであつし氏を迎えてのトークショー。16日(日)は自身のイラストを解説する交流会(?)など祝日ならではのイベントも同時開催。詳しくはイセタンメンズネットを検索してみてね! ※イベントは終了しています。
徹頭徹尾帽子を脱がないパーキンズに脱帽!
『男の嗜みシネモード』と題して、映画を通して大人の男の装い術や嗜みの作法を学ぶ、というのがこの連載の趣旨ではあるが、時としてそれとは真逆の、装いや作法としてはダメダメで真似はしたくないが、人間的な魅力から惹かれてしまう場合だってある。
今回選んだ映画『ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ』(2016年。英米合作)は、そんな1本だ。原題は『Genius』(天才)。実在のカリスマ編集者と若くして生涯を終えた天才作家との人間ドラマだ。時は1920年代のニューヨーク。F・スコット・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイらの名著を世に送り出した名編集者マックスウェル・パーキンズ(コリン・ファース)は、売り込みにやって来た無名作家トマス・ウルフ(ジュード・ロウ)の原稿に才能を見い出し、黒子として陰となり日向となりウルフを支え続け、そして1929年に出版されたウルフの処女作『天使よ故郷を見よ』は大ヒット。一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たすが——。
作家にしてもイラストレーターにしても、どんなに才能に溢れていようとも、いい編集者との出会いがなければ成功はありえないんだよね。イラストレーターとして地味な存在である自分を引き合いに出すのもおこがましいけど、それでも仕事の転機には必ずきっかけとなる編集者が傍にいてくれたし、彼らを恩人として今も敬愛している。もっともそれはお互いに距離を置いた今だから言えることで、実際、緊密に関わっているときはそんなきれいごとでは済まされないバトルが繰り広げられるわけで……。カミさんからも「あなたみたいに迷惑ばかりかける人とよく編集の方は付き合ってくれるわね」と呆れられる始末。申し訳ないっス。