一般道などレーシングユニット直系にはリハーサルレベル
待望の“来日決定”でプレスカーまで導入されたのだから、もはや奇跡としか言いようがない。実車と相対してみれば、フェンダーはスタンダードモデルよりはっきりと張り出して見え、特にリアフェンダーからは後輪から発せられる強大なパワー&トルクを容易に想像できるだろう。Z07パッケージ仕様ではないから巨大リアウィングは付いていなかったし、さらに黒いボディカラーゆえ、よほどマニアでないとZ06だと分かる人は少ないかも。とはいえ全身からはデンジャラスなオーラが発散されているから、ただ者でないと感じる人は少なくないはず。
本国仕様との見た目の、そして最大の違いは、センター4本出しではなくスタンダードと同じ左右4本出しマフラーとしたこと。これで音対策は問題なくなったが、最高出力とサウンドボリュームは下がった。それゆえレーシングカーC8・Rとヘッドやブロックを共有するLT6エンジンは意外なほど静かに目を覚ます。
ドライブモードをまずは“ツーリング”にセットして走り出す。市街地から高速道路まで、スタンダードモデルと変わらぬ快適なドライブフィールに驚かされた。8000回転以上も回る回転型ハイパワーNAエンジンが背後に積まれているとはまるで思えない。GMによるエンジン開発能力の高さの証明だ。もっとも、スーパーカー好きに言わせると通常領域では乗り手をドキドキさせてくれない、となるかも。
クルマに慣れてきたところでモードを “スポーツ”に。エグゾーストノートの迫力が明らかに増す。音圧と共にパワーが尻に伝わってくる。力がドライバーの腰周辺に溜まっていく感覚にゾクゾクした。
4000回転を超えてくると獰猛さを隠してはいられない。そこからは吹っ切れたかのように8000回転超まで回る。回るにつれ緊張感が増していく感覚が素晴らしい。しかもずっと力強いのだ。しばらく高回転域をキープしても、エンジンはまるで苦しそうではない。余裕がある。法律を守った一般道での演奏など、このアメリカンスーパースターにとってはリハーサル以下のレベル。レーシングユニット直系にもかかわらず、なんという扱いやすさだろう!
それ以上、このエンジンの実力を試してみたいならサーキットに行く他ない。それは諦めて、クルージングを楽しんでみた。もとよりアメリカンエンジンだ。イタリアンのように繊細な歌声は期待できない。DOHCエンジンでありながら、低回転域から力強く、そのエグゾーストノートの音質はなるほどアメリカンV8らしい。
その昔、イタリアで作れるなら月に人を立たせたアメリカでもスーパーカーを作ることはできる、と言って自分でメーカーを立ち上げた男がいた。コルベットZ06はジェネラルブランド(GMといえば日本でいうトヨタだ)でもイタリアンブランド級スーパーカーを世に送り出せることを証明したと言っていい。
文=西川淳 写真=タナカヒデヒロ、GMジャパン 編集=iconic