服飾史家/昭和女子大学客員教授の中野香織さんが語る、名作映画と「避暑」にまつわるお話――。
名画・名優の過ごし方にヒントあり!?
古今東西に通ずる避暑文化とは
軽井沢はシーズンになると各地に散らばる富裕層のコミュニティーと化しますが、元来、避暑地とはそのような機能を備えた場所でした。
明治時代に外国の商人や宣教師、駐日大使らが避暑地に1~2ヶ月滞在するための別荘を作ったのが日本の避暑地の始まり。現在よりも交通や通信の手段が不便だった時代において、母国を離れた有力者たちが一ヶ所に集まり、避暑という名目のもと、情報交換をしたりネットワークを築いたりすることは、異国でのサバイバルという意味においても大切なことだったのです。
交通や通信の手段が格段に便利になった現代においても、避暑地はそうした機能を果たしています。駐日外国人が「山の軽井沢、湖の野尻湖、海の高山」と呼んだことにならえば、西洋においては「山のサンモリッツ、湖のコモ湖、海のドーヴィル」というところでしょうか。
たとえば、イタリアのコモ湖。ローマ皇帝の時代から保養地として愛されてきた伝統ある避暑地です。自然の雄大な美とヨーロッパの文明をともに享受できる場所で、王室、富豪、著名人の豪華な別荘が立ち並びます。近年はハリウッド・スターが競って別荘を購入するので、リトル・ハリウッドと呼ばれることも。ジョージ・クルーニーの別荘もここにあります。ジョージが未来の妻となるアマルと出会ったのも、この場所でした。2013年の夏、共通の友人がアマルをジョージの別荘に連れてきたのが出会いのきっかけで、ジョージはアマルに一目惚れ。その後、結婚し一男一女の双子にも恵まれています。ジョージは、2018年にはハリー王子とメーガン妃を、2019年にはヨーロッパで休暇中のオバマ元大統領一家を別荘に招いています。仕事の領域、国籍を超えたセレブリティのネットワークがこうして避暑地を舞台に築かれていくのですね。
コモ湖はスクリーン映えも最高で、ジョージ・クルーニーも出演する『オーシャンズ12』(2004)のロケ地となったばかりでなく、この地に建つヴィラ・ラ・ガエータとヴィラ・デル・バルビアネッロは『007 カジノロワイヤル』(2006)の舞台となり、後者は『スターウォーズ エピソード2』(2002)でも登場します。