圧倒的に重いポルシェの負担
よく知られているとおり、自動車が排出する二酸化炭素は地球温暖化を招く原因のひとつとされる。これを、あと10年ほどで劇的に減らさない限り、地球の未来はないともいわれる大問題。
この辺の危機意識は日本人よりもヨーロッパ人のほうがずっと強く、なかでもドイツ人はとても真剣に取り組んでいる。ドイツの自動車メーカーがこぞってEVを発売しようとしているのはこのためで、その思いはポルシェとて例外ではない。
それどころか、年間200万台もの新車を販売するドイツの高級自動車メーカーがようやく1台か2台のEVを発売しようとしているのに対し、年間たった25万台ほどのポルシェがタイカンをゼロから作り上げたのだから、その負担はポルシェのほうが圧倒的に重いといえるだろう。
乗ればやっぱり「ポルシェ」
では、そんな重大なミッションを背負ったタイカンをポルシェがどんなクルマに仕上げたかといえば、これはもう徹頭徹尾ポルシェ以外のなにものでもないというスポーツカーだった。
なによりもまず外観がポルシェ的だ。ルーフが後ろにいくにつれてなだらかに下がっていくあの形状はポルシェでもっともアイコニックなモデル「911」とうりふたつ。左右のヘッドライトをボディの両側に引き離して装着したり、その間をどちらかといえばフラットな形状のボンネットでつなぐのも911に共通する考え方。そのほかにも外観の共通点はたくさんあるのだけれど、それは室内も同様で、ドライバーの目の前にメーターがずらりと並んだコクピットは911にそっくり。実は、着座姿勢まで911に似せたそうだ。
走らせてもタイカンはまさしくポルシェだった。ポルシェの魅力のひとつが、タイヤが地面にしっかり接している様子がハンドルを通じて感じられる点にあるのだけれど、タイカンの印象がまさにそう。高速域での安定感を大切にした操縦感覚も911などととてもよく似ていた。
いっぽうで、これまでのポルシェと少し違っているのが加速感。エンジンを積んでいないタイカンはどこまでも滑らかに、そして静かに加速していくのだ。しかも、ガソリンエンジンと電気モーターの特性の違いにより、タイカンは動き出しのその瞬間から力強い加速性能を示してくれる。これを一度体験したら病みつきになること請け合いだ。
もっとも、EVは急加速を繰り返すとモーターが過熱してあっという間に本来の性能を発揮できなくなるそうだが、ポルシェはモーターの内部まで冷却用の水を取り回すことでこれを防止。ゼロ発進から200km/hまでの加速を20回以上行なってもほとんど性能が落ちないスタミナを手に入れたらしい。これも、サーキット走行を何周してもへこたれることのないポルシェのスポーツカーに共通するキャラクターといえる。
これ以外にもオリジナルのテクノロジーを満載したタイカンは、未来からやってきたスポーツカーといっても間違いではないだろう。
文/大谷達也 写真/ポルシェジャパン 編集/iconic